管理職に昇進すると、人をマネジメントする方法を学ぶ。実務は部下が担当し、あなたは、管理職という役職に伴う意思決定権や責任、統制権を手にする。
ただしそれは、「人」を管理している場合に限る。もし、最近あなたが管理しているのが「AIエージェントのチーム」であるならば、状況は一変する。
AIエージェントが知識労働を変革するにつれて、AIエージェントが実行する業務の割合はますます増えている。しかし、意思決定権や責任、結果を形づくる権限は、自動的には移譲されない。AIは、「人間の主体性(human agency)」と呼べるものを拡張しているが、従業員に対する評価は依然として、彼らが何をしているかによって行われる。どのように決定し、指揮し、責任を負ったかではない。
その力学を、組織全体に拡大してみよう。
そのギャップには名前がある。「阻害された主体性(blocked agency)」だ。
10カ国の労働者2万人を対象とした調査と、「Microsoft 365」の生産性シグナル数兆件の分析に基づくマイクロソフトの「ワーク・トレンド・インデックス」2026年版は、この変化を裏付ける正確なデータを提示している。AIが業務の実行を担うようになるにつれて、人間は主体性、つまり、業務を指揮し、判断を下し、結果に責任を持つ能力を獲得すべきだ。あらゆる組織にとって急務なのは、その「拡張された主体性」を価値へと転換することだ。
ほとんどの組織は、そうしていない。その理由は、人々の準備ができていないからではない。
データが明らかにしたのは、AIが従業員に与える主体性を、なぜ組織は阻んでいるのか、リーダーはそれに対して何ができるかだ。
AI能力のギャップ 従業員にできることと、組織が許容すること
従業員がAIを活用して仕事をするようになると、その能力には変化が生じる。もはや、分析や作成、実行に時間の大部分を費やす必要はなくなる。従業員は、単にタスクをこなすことから、結果を形づくる段階へと移行できる。ワークフローの再設計や、複数のAIシステムを横断した業務、かつては上位の役職に属していたような思考レベルで業務をこなすことを学ぶ。
マイクロソフトが調べたAIユーザーのうち58%が、1年前には不可能だった成果を生み出していると回答している。「Microsoft 365 Copilot」における会話のほぼ半数は、分析、問題解決、評価、創造的思考といった認知的業務を支援している。
その能力は本物だ。しかし、その能力に基づいて行動することには制限がある。
なぜなら、組織図が変わっていないためだ。役職によって、誰が何を担当するかが依然として決まっている。意思決定権も、依然として役職に基づいている。業績を測る指標も、依然として旧来の業務モデルを反映している。従業員はツールを活用し、できることを拡張している。しかしすぐさま、自分の役割や職務記述書、役職にひも付く「権限」という壁にぶち当たる。
従業員には、もっとできることがある。しかし組織は、従業員に何が許されているかを再定義していない。それを評価することもなく、それを支援する環境も整えていない。



