経営・戦略

2026.05.22 07:15

スイーツの経営は甘くない。洋菓子店の倒産が3割増という実態

stock.adobe.com

stock.adobe.com

街の洋菓子店は、誕生日やクリスマスといったイベントだけでなく、色鮮やかなケーキが並ぶショーウィンドウを眺めるだけで、つい買ってしまう人も多いだろう。しかし、かつて地域で親しまれた店舗や、著名な専門店が突如として姿を消す事例が近年相次いでいる。帝国データバンクの調査により、洋菓子業界を襲う構造的な不況の波が明らかとなった。

2025年度に発生した「洋菓子店」の倒産件数は65件に上った。物価高を背景に急増した前年度の51件からさらに14件、率にして約3割増加しており、2年連続で深刻な水準を記録している。背景にあるのは、急速に進んだ物価高による材料費の高騰。小麦粉やバター、クリームなどの乳製品、さらにはカカオといったあらゆる原材料の価格が高止まりを続けている。これに加え、包装資材や人件費、水道光熱費の上昇も重なり、洋菓子店の収益力は低下する一方だ。

さらに追い打ちをかけるのが、他業態との激しい顧客獲得競争。専門店に匹敵する品質を誇るコンビニスイーツの台頭や、店舗拡大を推し進める大手洋菓子チェーン店の存在が、街の洋菓子店を脅かしている。特に400円から600円前後の中価格帯スイーツにおける競争は激化の一途をたどる。客離れを懸念し、コスト上昇分を価格に反映できない「手頃な街のケーキ屋さん」ほど、苦境に立たされているのが現状だ。

しかし、この影響は小規模な店舗にとどまらない。ショッピングセンターなど7店舗を展開していた「グランドルチェ(千葉)」は、原材料価格の高騰や人件費の上昇に耐えきれず事業継続を断念。また、著名なフランス菓子店として高い人気を誇っていた「白鳥菓子工房(埼玉)」も、収益性の低下に原材料高が追い打ちをかけ、事業継続が困難となった。独自のブランド力を持つ中堅や著名店であっても、価格転嫁の難しさに直面している。

経営環境の悪化はデータにも表れている。2025年度の洋菓子店における営業利益率は平均0.7%にとどまり、物価が急上昇した2022年度以来の低い水準へ悪化した。最終損益においては約3割超が赤字に転落し、減益を含めた業績悪化の割合は6割に迫る。顧客の離反を恐れて値上げを見送った結果、粗利率の悪化を招くケースや、商品のサイズを小ぶりにする「実質値上げ」に踏み切ったものの、かえって顧客満足度の低下を招くという悪循環も見られ、経営判断の難しさが浮き彫りとなっている。

こうした苦境の中、独自のブランド力と品質への支持を背景に、原材料費の高騰に伴う値上げへの理解を消費者に促し、利益水準を維持・拡大させる人気店も存在する。さらに、InstagramなどのSNSを効果的に活用してファンを囲い込む動きや、ケーキを完全予約制にすることで廃棄ロスを徹底的に排除する先進的な取り組みも始まっている。

とはいえ、こうした構造改革を実践できるのは限られた店舗であり、多くの洋菓子店は依然として余裕のない経営を強いられている。カカオをはじめとする原材料価格は今後も高騰が見込まれており、洋菓子店を取り巻く環境は予断を許さない。コスト上昇分をいかに適正に価格へ反映し、付加価値を認めてもらうかが、今後の事業継続に直結するだろう。

出典:帝国データバンク「洋菓子店の倒産動向(2025年度)」より

文=飯島範久

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事