孫正義の「発明ノート」と逆算の哲学
壮大な行き先、人にはまねできないルーチン、凡人には想像できないノート活用法。この3点セットで突き抜けているのが、ビリオネアランキング国内2位のソフトバンクグループ代表、孫正義である。
学生時代から発明ノートを毎日15分と決めて書き続けたことは有名だ。その結果、自動翻訳機の発明につながり、売却益の一部がソフトバンク設立資金になった。それだけではない。
26歳のとき、肝炎を患って余命5年と宣告されて入院した。そこで病院に毎日紙袋いっぱいの「孫子の兵法」の関連書を仲間にもち込ませて読み漁ったという。そこで「孫子」と自身の「孫」をかけ合わせた経営実践の書『孫の二乗の兵法』をつくった。5つの漢字「頂情略七闘」がリーダーのもつべき知恵だという。
「頂」は「山に登る前から、頂上から眺める下界の景色を想像すること。登る山を決めよ」。(柳井)
前述した柳井の言う「行き先」である。
柳井は「行き先を言語化することで、事業への責任は明確になり、次にすべきことを考えることにつながる」と言う。
奇しくも二人とも同じことを若い時に気づいていたのだ。
次に、「情」はそのための情報収集である。
「略」はビジョン実現の戦略。「七」は「7割以上の確率を理詰めで詰めて、失敗の範囲が3割超えるリスクは犯さない」。そして「闘」は「闘って初めて事がなせる」。終わりを決め、そこから逆算して、できる限りのことをする。孫はそれを26歳で自分の言葉に変換し、ノートに書き綴っていた。
柳井が若いときに「衝撃を受けた」というロジックと似ている。それは、彼が「僕の運命を変えた一冊」というハロルド・ジェニーン著『プロフェッショナルマネジャー』に書かれた「三行の経営論」という一節だ。3行でこう書いてある。
〈本を読むときは、初めから終わりへと読む。 ビジネスの経営はそれとは逆だ。 終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ。〉
柳井は同書の序文でこう書いている。
〈僕は、カジュアルウェアの郊外型店をやったら面白いかもしれないという漠然とした思いを、ゼロから始めて一つひとつかたちにしていくことが経営だと考えていた。だが、ジェニーン氏の経営論を読んで僕の経営概念は180度変わった。「経営はまず結論ありき」で(中略)そこから逆算して、結論に至る方法を考えられる限り考え、いいと思う順から実行する〉。


