洞察力とチャンキング
プロ顔負けの筆力で週刊誌の連載を続ける藤田にとって、書くことは思考を言語化し、テーマを深く掘り下げる、いわば公開版「思考ノート」だ。
創業時から2022年の本誌取材時まで、彼が社内に投げかけたスローガンは27本。起業時からブログで言語化を続けてきたせいか、「言葉を残す」ことを意識する。彼はこんなエピソードを明かす。
ある日、電話で相手をガンガンに詰めている社員を社内で見かけました。これはまずいと思い、スローガンをTEI-SHI-SEI(低姿勢)にして、社内の紙コップにイラストと一緒に印刷しました。
みんなが納得する言葉を選んで、会社の調子がいいときは締めたり諌めたりして、厳しいときは励ましています(藤田)
タイミーの小川嶺をはじめ、若い起業家たちが「藤田さんにこう言われた」と、彼の言葉を引用することがある。気の利いた言葉で気づきを与えられているのだ。
言語化のうまさは、学生時代にバイトの先輩から言われたことを今も守り続けているからだろう。こう言われたという。
「人々が何からモチベーションを得て、何に喜びを感じ、何を誇りに思うのかを知るには、本、新聞、映画、舞台をたくさん見て感性を磨け」
人間への洞察力を磨くことこそ組織成長の鍵と信じ、そのためにインプットとアウトプットを回転し続ける。では、どうやってそれを習慣化できるのか。
そのヒントとなるのが、18年に取材したランキング常連の永守重信(ニデック)の話だ。
彼は休日も出張先でも、毎晩ノートに「明日やること」を20〜30項目書き、それを順番にひとつずつ消して1日が終わるという。「食事も運動もその通りにピシッとやる」と豪語する。唖然として彼の話を聞いていると、こちらの思いを察してか、永守はこう言った。
「そんな人生、面白いのかと人は言います。でも、その日によって気持ちが変わるとかは、ありません。だから面白い。人生の目標があり、実現したいことに向かって動き、その目標が達成されるから、また次の目標が出てくるのです」(永守)
認知科学では、こうした習慣の連鎖を「チャンキング」という(チャールズ・デュヒッグ著『習慣の力』)。書くという行動が起点となり、目標に向かう一連の行動が始まり、無意識のルーチンになる。他人には苦行に見える行動が、本人にとっては呼吸と同じで、達成の喜びを知っているからこそ、続くのだ。
ニデックの不正事件はこの習慣が起因するのだとしたら、習慣の力は人の行動を止められなくするほど強いというものか──。
かつて国税庁が公表していた高額納税者公示で、1980年代に俳優部門で5年連続1位の記録をつくった黒柳徹子も、本誌の取材で仕事を長く続ける秘訣として「ノート」を挙げている。
「わざと仕事に慣れないよう意識して、毎日、ノートの白紙のページに何を書くかを考えて仕事に臨みます」
徹底した準備によって、安心して忘れることができるという。書くことで情報を自分の血肉にすると、中身は忘れても、本番ではパフォーマンスを高められる。行き先が明確だから、続くのである。


