創業家や資産家にとって、不動産承継は先送りできない経営課題となっている。保有不動産の維持継続・賃貸条件見直し、リノベーション、新築・建替え・等価交換等の有効活用、売却・組換え・不動産М&Aなど選択肢が多岐にわたる今、デロイト トーマツ ファミリーオフィスサービスの不動産アドバイザリーが新たな解を示す。
「大規模な不動産を保有するファミリー企業のオーナーや資産家には、現在70代後半から80代に差しかかっている団塊世代の方々も多くいらっしゃり、資産を次の世代へどのように承継していくかは、先送りできないテーマとなっています。特に不動産は相続時の評価額が大きくなりやすく、分割もしにくい資産であるため、早い段階で承継方針を定めておく必要があります。しかし、多くの方が遺言書等で承継方針を定めていないのが現状です」
そう語るのは、デロイト トーマツ ファミリーオフィスサービス 執行役 兼 デロイト トーマツ税理士法人 パートナー税理士 蝋山竜利(以下、蝋山)だ。
資産相続の対応が先延ばしされる要因は、相続税の負担に始まり、老朽化した不動産の開発に必要な建設費の高騰、親族間の利害調整や後継者問題の未解決などさまざま。しかし、オーナーの身に万が一のことが起こってから対応するのでは遅い。デロイト トーマツ ファミリーオフィスサービス マネジャーの大屋健太郎(以下、大屋)は、その危機について次のように語る。
「遺言書がないままオーナー様が亡くなられた場合、相続税の申告と納税は原則10か月以内に行う必要があります。預金や上場株式であれば現金化しやすく、相続人同士で分けることも比較的容易ですが、不動産はそう簡単にはいきません。
例えば、10億円相当の不動産を相続する場合でも、現金がなければ相続税を支払うことはできません。さらに、3人が相続するケースでは、1人が不動産を引き継いだとしても、ほかの2人は遺留分を請求する権利があります。その支払いに多額の現金が必要になっても、すぐに用意できないことは少なくありません。結果として、不動産を売却して資金を確保せざるを得なくなっても、期限が限られているため、十分な検討ができないまま相場より低い価格で手放すケースもあります」(大屋)
こうした事態を避けるには、オーナーが存命のうちに承継の道筋を整理しておくことが重要になる。その際、不動産単体ではなく、金融資産や事業資産、家族構成まで含めて判断する視点が欠かせない。売却、保有継続、法人化など、選択肢はひとつではないからだ。
デロイト トーマツ ファミリーオフィスサービスでは、こうした承継課題に対し、財産全体と家族全体を見渡したうえで解決策を検討する。
「私たちは、まずはクライアント様の承継課題について、経営・財産・家族の状況など多面的に現状分析を行ったうえで、承継戦略をクライアント様と一緒に考え、複数の選択肢を比較しながら具体的な解決策をご提案しています。そのうえで、個々の不動産について、活用案の検討から事業者選定、売買、運用まで伴走します」(蝋山)
この同社独自の視点が生かされた、とある事業施設の承継事例がある。
所有権を維持しながら次世代の収益基盤を構築
東京近郊の都市にあった広大な土地を必要とする事業施設は、最寄り駅から徒歩5分とアクセスがよく、所有地は1,000坪以上と広大だった。オーナーの高齢化に加え、収益の悪化や施設の老朽化が進み、4人の後継者のなかにも事業を承継する者はいなかった。そのためオーナーは事業の終了を決断、残された不動産をどう活用するかについて相談が寄せられた。
「最優先条件は、先祖から受け継いできた土地を手放さず、子孫に残したいというものでした。そこでまず、施設を取り壊し、自己投資で新たなビル・マンション・認可保育園・特別養護老人ホーム・介護付き有料老人ホーム・商業併用住宅等を単独もしくは複合して建てることを想定しましたが、1,000坪以上もある土地なので建設費に数十億円ほどかかることがわかりました。しかし、オーナー様には金融資産がほとんどなく、高額な借り入れや税金の不安、承継者となる兄弟間の相続争いの懸念などから自己投資の案には消極的でした」(大屋)
そこで等価交換、一部売却・一部投資、組替えなどあらゆる選択肢、メリット、デメリットを提示。そのなかからオーナーが受け入れたのが、一般定期借地権を活用する案であった。デベロッパーに土地を貸し付け、分譲マンションを建設してもらい、契約期間満了となる70年後に更地で返還を受ける仕組みだ。土地の所有権を維持したまま、高額な建設費を負担することなく、長期にわたる安定収益を見込める点が決め手となった。
さらに、一般定期借地権契約によって受け取る設定一時金についても、受領方法ごとの違いを整理・検証した。主な方式は「権利金方式」「前払地代方式」「保証金方式」の3つで、税務上の取り扱いがそれぞれ異なる。
「権利金方式」は受取時に一括で課税されるが、譲渡所得として分離課税(税率20.315%)の対象となる場合があり、一方、「前払地代方式」は借地権の設定期間に応じた按分額で毎年課税されるが、不動産所得として総合課税(累進課税・最大55%)となる。さらに、「保証金方式」は受領時点で所得税が課されないものの、預かり金として将来的な返還義務が生じる。どの方式にも一長一短があり、税負担だけでなく、将来世代への影響まで含めて判断する必要があった。
「3つの方式をご提案したところ、後の世代に返還義務を残したくないというご意向があり、『権利金方式』と『前払地代方式』のいずれかに絞って検討を進めました。その後、双方の税額の試算結果やクライアント様に必要な手元資金額などを総合的に検討され、最終的にクライアント様のご判断により、『権利金方式』を選択されました」(蝋山)
今回の取引でオーナーはデベロッパーから権利金として10億円以上を受領。所得税を納税し、残りの資金の一部で新たな不動産物件を購入。今後の収入源も確保した。あわせて遺言書を作成し、4兄弟のうち次男を承継者として指名。将来的に遺産を相続する際、ほかの兄弟への代償金の問題も解決させた。
次世代へつなぐ資産設計、不動産承継の新常識
不動産の活用や承継については、デベロッパーやハウスメーカー、不動産仲介業者などに相談するケースが多い。各社はオフィス、商業施設、住宅、医療・福祉施設など、それぞれの領域で豊富な知見と実績をもっており、有力な選択肢であることは間違いない。
一方で、不動産に関する意思決定は、建物を建てるか売却するかといった個別資産の話にとどまらない。財産全体の構成、納税資金の確保、承継後の収益性、家族間の公平性など、複数の論点が同時に絡み合うため、特定の手法だけでなく、複数の選択肢を横断して検討する視点が求められる。
「私たちは特定の商品やスキームを前提とせず、売買、保有継続など全体最適のロジックを元にしたあらゆるご提案を行っています。そのなかには『何もしない』という選択肢もある。重要なのは、クライアント様にとって本当に必要な打ち手は何かを見極めることです。急いで結論を出すのではなく、一度立ち止まって状況を整理することに価値があると考えています」(大屋)
デロイト トーマツ ファミリーオフィスサービスでは、こうした考え方のもと、ファミリーの成長戦略、投資ポートフォリオ、税務、承継、各種トランザクションまで含めて総合的に検討。不動産アドバイザリーでは、不動産だけを個別に考えるのではなく、建築・財務・法務など、グループ内各分野の専門家が連携し、財産承継からCRE戦略まで一体で設計する体制を整えている。複雑化する承継課題に対し、部分最適ではなく全体最適で向き合う。そこに同社の特徴がある。

同社ではクライアントが抱える課題を整理する際、「6つの柱」と呼ぶ独自の視点を用いて現状を検証している。経営承継の方針、財産承継の方針、資産内容の把握、納税資金の確保、将来に向けた資産活用、不測の事態への対応など、ファミリーを取り巻く論点を多面的に点検するフレームワークだ。
「まずは6つの柱をそれぞれ点数化し、どこに歪みや弱点があるのかを診断します。現状を正しく把握したうえで、優先的に取り組まなければいけない問題を明らかにし、順番に対処していく。その積み重ねが結果として全体最適につながっていきます」(大屋)
「不動産の活用を節税対策としてとらえる方は少なくありませんが、本質は次の世代へどうつないでいくかにあります。不動産承継を単なる資産承継としてではなく、『100年先を見据えた成長戦略の一環』として考えることが重要です。その意味で、不動産アドバイザリーを活用いただく意義は大きいと考えています」(蝋山)
税制や市場環境が変化し続けるなか、先祖代々受け継いできた資産をどう守り、どう育て、どう次世代へ渡していくのか。不動産承継は、いまや相続実務の一論点ではなく、ファミリーの未来を左右する経営テーマになっている。
デロイト トーマツ ファミリーオフィスサービス
https://www.deloitte.com/jp/dtfos
ろうやま・たつとし◎デロイト トーマツ税理士法人 パートナー 税理士、公認会計士、不動産鑑定士。司法書士事務所で不動産・相続の実務に従事した後、有限責任監査法人トーマツ入社、のちにデロイト トーマツ税理士法人に転籍し、現在は税務・不動産を中心とした総合コンサルティングサービスで手腕を発揮。24年よりデロイト トーマツ ファミリーオフィスサービス 執行役を兼任。
おおや・けんたろう◎デロイト トーマツ ファミリーオフィスサービス マネジャー。総合財産コンサルティング会社で10年間、富裕層向けに財産コンサルティング業務に従事した後、2023年にデロイト トーマツ税理士法人に入社。相続・事業承継スキーム、同族法人を含めたファミリー全体の相続対策・事業承継、不動産ビジネス全般などの知見が深く、24年4月設立の新法人デロイト トーマツ ファミリーオフィスに転籍。
※メインカット:左から、シニアマネジャー 根津 智和、パートナー 蝋山 竜利、、マネジャー 大屋 健太郎、マネジャー 長谷川 裕子




