愛知県岡崎市。江戸時代以降、日本三大石材生産地の一つとして知られ、古くから優れた石職人を輩出してきました。一方で、近年の墓じまい・墓離れといったトレンドを背景に、いわば「衰退業種」となっています。しかし、今一社のチャレンジにより、劇的な変貌を遂げようとしています。
創業90年を超える老舗、有限会社稲垣石材店。彼らが展開する石の器ブランド「INASE」は、発表からわずか数年で、国内ミシュラン星付きレストランの数々からや、フランスやスペイン、シンガポールといった世界の高級レストランから注文が相次ぎ、新規注文は半年待ちという驚異的な成長を遂げました。さらにその勢いは止まることなく、日本を代表するラグジュアリーブランド「レクサス(LEXUS)」とのコラボレーションや、日本の工芸の旗手「中川政七商店」での取り扱いなど、かつては想像もできなかったステージへと到達しています。
この成功の裏側には、徹底的な「価値の再定義」や発信強化、そして「アトツギ甲子園」を皮切りとした新たなつながりづくりといった取り組みがありました。私自身も稲垣さんのチャレンジの伴走者としてサポートしてきました。本稿では、このプロジェクトがいかにして既存の「石屋」の枠を飛び越えたのか、そのプロセスを振り返るとともに、不確実な時代における意思決定理論「エフェクチュエーション」の視点からその本質を紐解きます。
伝統の危機と、小さな「端材」から始まった挑戦
岡崎の石材市場は、過去20年で急激に縮小しました。ライフスタイルの変化に伴い、お墓を建てる文化が薄れ、墓石需要はピーク時の半分近くにまで落ち込んでいます。稲垣石材店もまた、その時代の荒波の中にありました。
転機をもたらしたのは、2016年に家業へ戻った4代目の稲垣遼太さんです。彼が着目したのは、墓石を製造する過程で必ず発生する「端材」でした。材料となる石材を切断・加工して墓石を製造する中で、「産業廃棄物」として捨てられていた石。当初は、角を取り文鎮にしたり、穴を開けて花瓶を製造したり、薄い端材はお皿に加工してみたり。さらに、フクロウなどの置物にするなどの試行錯誤を行われましたが、思ったようには売れませんでした。その中でも私たちが注目したのは、石の器。フリマアプリに掲載すると多少の売上はあり、オーダーメイドの注文が入ることもありました。
サポートを通じ、私たちは端材の本質を「最高級の御影石を熟練の職人が手仕事で仕上げたオーダーメイドの石の器」へと再定義しました。墓石に使用される石材は、最高級の御影石。その魅力と、小さな家族経営の工場だからこそ、一つ一つを手仕事で作り上げていることの価値を捉え直したのです。それまでは、単に端材として、産業用廃棄物として処分すらされていたものを。
販売促進もお金をかけずに一歩踏み出しました。書店に立ち寄り、高級レストランガイドブックを1冊購入。このガイドブックには高級レストランたちの、名前や連絡先等がずらっと掲載されています。それを手元にこの新商品の案内を行っていったのです。そして、この「一点モノの器」というコンセプトが、食のプロフェッショナルたちの心に火をつけたのでした



