事業継承

2026.05.26 14:15

墓じまい風潮で凋落? からレクサス、中川政七商店も欲しがる石に━━ある石材店の逆転劇

写真提供:稲垣石材店

エフェクチュエーション理論で読み解く「INASE」の成功

「INASE」の歩みは、現代の経営学における意思決定理論「エフェクチュエーション(実効理論)」を完璧に体現しています。経営学者サラス・サラスバシーは、不確実制の高い状況で新たな事業を成功させた起業家に5つの思考原則があることを発見ました。それがいま経営学の世界で注目を集めている、「手持ちの資源を生かす」思考様式「エフェクチュエーション」だ。

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1. 手中の鳥(Bird-in-hand)の原則

稲垣さんは、「全く新しいものを開発」したのではなく、手元にあった「端材」の魅力の再定義をおこなったのです。自分たちでは当たり前になっていて見過ごされがちな自社の魅力であり経営資源である「最高級の御影石」と「職人の腕」という「手中の鳥」からINASEは出発しました。

2. 許容可能な損失(Affordable Loss)の原則

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最初は端材と空き時間という、失っても痛くない範囲で実験を繰り返しました。レストランガイドブックをきっかけにして、お金をかけずに小さく始めると言う一歩。この軽やかな一歩が、後の大きな飛躍を生みました。

3. クレイジー・キルト(Crazy Quilt)の原則

自社の強みを生かし、小さく歩み始めたチャレンジは、戦略的なプレスリリースや情報発信などを通じて多くの人たちの目に留まるようになっていきました。もちろんマルシェイベントやネットワーキングの機会等への参加も通じ、様々な共創に。果てはレクサス、中川政七商店など予期せぬパートナーを次々と巻き込み、自らの事業というキルトを広げていきました。当初から「什器やカウンターを売る」と決めていたわけでは全くありません。まして、高級ブランドと協業した展開など想像だにしていませんでした。出会った人々の要望に応える中で、事業がダイナミックに変容していったのです。

4. レモネード(Lemonade)の原則

墓石の「端材」、いわばゴミ扱いされていたものも、見方を変えればお宝になると言う視点の転換。さらに、「お墓需要の激減」という業界の危機だからこそ、新たなチャレンジを取り組むチャンスと捉えたわけです。

5. 飛行中のパイロット(Pilot-in-the-plane)の原則

未来を予測するのではなく、自ら行動してコントロールする。什器やカウンター、そして世界的ブランドとのコラボレーションという「新しい現実」は、稲垣さんが動き続けたからこそ創り出された景色です。

後継者たちが切り拓く「新しい地方創生」

稲垣石材店「INASE」の事例が教えてくれるのは、伝統産業の再生とは、自らが持つ本質的な価値を見つめ直し、現代のニーズに合わせて「翻訳」し直す作業に他なりません再定義とは、いわば意味のイノベーション。今あるものも、社会の変化やライフスタイルの転換の中で見方を変え、新たな価値を定義することで、突破口が開けるのです。

写真提供:稲垣石材店
写真提供:稲垣石材店

端材から器へ、器からインテリアへ、中川政七商店やそしてレクサスという最高峰の舞台へ。「捨てられるはずだった石」が、今、世界の美食家やラグジュアリーな空間を彩っています。私が目指しているのは、こうした「アトツギ」の挑戦に火をつけ、伴走することです。自らの手元にある資産を信じ、エフェクチュアルに動き出す経営者が増えること。それこそが、地方経済を再び輝かせる道だと確信しています。

文=秋元祥治 編集=石井節子

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