事業継承

2026.05.26 14:15

墓じまい風潮で凋落? からレクサス、中川政七商店も欲しがる石に━━ある石材店の逆転劇

写真提供:稲垣石材店

器から空間へ━━「桁違い」の成長を呼んだ「価値の見える化」

「INASE」の真のブレイクスルーは、単に「器が売れた」ことだけではありませんでした。オーダーメイドで石の器を作るというプロセスを通じて、稲垣石材店が持つ「オーダーメイドで石材を自由自在に加工することができ、空間を演出する表現力」が可視化されたのです。

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写真提供;稲垣石材店
写真提供:稲垣石材店

器を手にした顧客や、メディアを通じてその造形美を知った人々から、これまでの石材店には届かなかった驚くべき相談が舞い込むようになりました。

「この石の質感で、店舗の店内販売什器を作ってほしい」

「この技術を活かして、唯一無二のバーカウンターを設えてほしい」

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石の器という「小さな入り口」が、店舗設計やインテリアという「大きな市場」への扉を開いたのです。単価は文字通り「桁違い」へと押し上げました。これは、お墓という既成概念に縛られていた時代には決して見えなかった、伝統技術の「新しい出口」でした。

加速する共創━━「アトツギ甲子園」、レクサス、そして中川政七商店へ

ブランドの成長をさらに加速させたのが、中小企業庁主催の「アトツギ甲子園」への挑戦です。稲垣さんはこの舞台で、単なる商品の紹介に留まらず、「石の街・岡崎の技術を未来へ繋ぐ」という志を語りました。この熱量が呼び水となり、多くのつながりを獲得。そこからさらなる「出会い」が連鎖していきます。

一つは、ラグジュアリーブランド「レクサス」とのプロジェクトです。地域の伝統工芸に着目したプロジェクトを通じて、INASEの石の器はレクサスの国際的なイベントに採用されました。4月中旬にイタリアで開催されたミラノサローネでは、作品の床材部分を担当。

写真提供:稲垣石材店
写真提供:稲垣石材店

作品のテーマであるスペース(空間と宇宙)を表現するために石に求められた役割は、耐久性だけでなく、宇宙を表現する石の美しい模様や、組子の壁と美しい椅子を映りこませることができる美しい黒色と艶です。そこで、福島県産の浮金石を提案し、制作したといいます。さらに軽量化のため、床を17枚のパーツに分割し、コンマミリ単位の精度を実現するため、職人が手加工で丁寧に加工したとのことです。

世界基準の「匠の技」を追求するレクサスと、伝統を現代のアートに昇華させたINASE。この両者の共演は、石材業界に衝撃を与えたといっても過言ではないでしょう。

そしてもう一つが、日本の工芸を元気にすることを掲げる「中川政七商店」での取り扱いです。全国から厳選された工芸品が並ぶ同店にINASEが加わったことは、このブランドが単なる一過性のブームではなく、日本の新しい「工芸」として認められたことを意味します。

メディアを通じて価値が伝わり、そこから新しい繋がりが生まれ、また別の高みへと引き上げられる。この好循環こそが、INASEを短期間でトップブランドへと押し上げた原動力です。

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文=秋元祥治 編集=石井節子

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