2025年3月、Cerebrasによる初の株式公開の試みは宙に浮いた状態にあった。そんな中、CEOのアンドリュー・フェルドマン(56)はカリフォルニア州サンノゼ中心部の流行のパーティー会場「グラスハウス」にいた。混み合う部屋の前に立ち、シャンパンのグラスを掲げていた。言わば「敵地のど真ん中」である。エヌビディアのGTCカンファレンスの会期中、半導体大手の巨大な年次サミットに合わせて町に来ている見込み客に働きかけるべく、華やかなイベントを開いていたのだ。
「乾杯して、パーティーを楽しんでほしい」と彼は言った。挨拶を終えた瞬間、カーテンが開き、ダンスフロアとミラーボール、スモークマシンが姿を現した。スピーカーからはヒット曲が大音量で流れた。
急速な市場拡大の中で確保する取り分の余地
エビのカクテルやアボカドのミニタコスをつまむ客が集う、豪奢な会だった。サプライズでダンスフロアを披露する凝った演出は、この日早くにフェルドマンがForbesに語ったエヌビディアとの競争についての言葉を、そのまま体現しているようだった。
「問題は競争しているかどうかではない」と彼は言った。答えは力強く「イエス」である。「問題は、彼らからシェアを奪わなければならないのか、それとも市場があまりにも急速に拡大していて、誰もが食べていけるのか、ということだ」。
言い換えれば、彼とCerebrasが取り分を確保する余地は十分にある──それが、隠されたダンスフロアのように最初は見えにくかったとしても、ということだ。
ついに果たした、8769億円規模の公開市場デビュー
それから1年以上が過ぎ、世界最大級のAI企業がチップとデータセンターに数兆ドル(数百兆円)を投じる中で、彼の見立てはますます現実味を帯びている。米国時間5月14日、Cerebrasはついに上場を果たした。同社は1株185ドルの公開価格で、実に55億5000万ドル(約8769億円。1ドル=158円換算)を調達した。フェルドマンは約5%の持ち分を持つため、これだけでもビリオネアとなるに十分だった。さらに株価は取引開始時に350ドルで寄り付き、彼の株式とストックオプションの価値は34億ドル(約5372億円)に達した。共同創業者でCTOのショーン・リーも、株式とストックオプションの価値が約19億ドル(約3002億円)となり、その列に加わった。
同社が手がけるチップは、推論──AIモデルを学習させるのではなく、動かすために必要な計算処理能力──において、業界標準であるエヌビディアのGPUより高速かつ低コストだと主張する仕様だ。Cerebrasの強みは「ウェハーチップ」だ。ディナープレートほどの大きさの巨大なハードウェアで、エヌビディアのGPUのおよそ58倍のサイズだという。Cerebrasは、この巨大チップがメモリ帯域幅やチップ間通信の面で、市場にある他のシリコンより優れていると主張している。
公開市場デビューに至るまでの長い道のり
Cerebrasが公開市場デビューに至るまでの道のりは長く、曲折に満ちていた。同社は、米国証券取引委員会(SEC)に提出する新規株式公開(IPO)の登録届出書S-1を2024年9月に初めて提出し、アラブ首長国連邦(UAE)のテクノロジー複合企業G42が同年上半期の売上の87%を占めていたことを明らかにした。このプロセスは、G42からの投資が、米国の対内外国投資を審査する政府委員会CFIUSの監視対象となったことでつまずいた(編注:CFIUSは、国家安全保障の観点から外国資本による米企業買収を審査する、省庁横断委員会)。CFIUSは国家安全保障上の懸念から調査を開始した。同社はロードショーを中止し、IPOを延期したと報じられている。数カ月にわたる不確実性を経て、Cerebrasは最終的に2025年3月にCFIUSの承認を得た。
しかし同社はIPOへの道を直ちに再開するのではなく、資金を蓄えるためにプライベート市場へと舵を切った。2025年9月には評価額81億ドル(約1.28兆円)で11億ドル(約1738億円)を調達。これは、フィデリティ・マネジメント、ヴァロー・エクイティ・パートナーズ、ベンチマークなどの支援を受けたものだ。
2026年2月にはタイガー・グローバル主導でさらに10億ドル(約1580億円)を確保し、評価額は230億ドル(約3.63兆円)へと膨れ上がった。そして2026年4月、Cerebrasは新たなS-1を提出し、2025年の売上高が5億1000万ドル(約806億円)と、2024年から約76%増加したと報告した。



