2026年4月23日、東京・麻布台ヒルズにあるBMWのブランド・ストア「FREUDE by BMW」で、新型7シリーズの日本導入を前に、日本で初めてその姿が披露された。会場で取材に応じたのは、BMW Group Advanced Designと姉妹組織のDesignWorks、二つの組織のトップを兼ねるアンダース・ワーミング。彼の口から繰り返し出てきたのは、「ノイエ・クラッセ」という、ドイツ語で「新しいクラス」を意味する言葉だった。
この名前は、最近作られたものではない。65年前、新しい時代を切り開くために生まれた一台のBMWに与えられていた呼び名である。なぜいま、その名前が新型7シリーズで再び持ち出されているのか。動き続ける時代のなかで、BMWは何を残し、何を新しくしようとしているのか。
自動開閉のドア、天井から降りて後席の上部を覆い隠す巨大ディスプレイ、そしてドライバー正面の主計器を視線の奥側に再配置した「BMW Panoramic iDrive」への大胆なコックピット改修。フラッグシップらしい豪華な装備を惜しみなく搭載した一台が、新型7シリーズである。
二度掲げられた、ノイエ・クラッセ
「ノイエ・クラッセ」は新しい言葉ではない。1961年のフランクフルト・モーターショーで、中型セダン「BMW 1500」がこの名前を背負って世に出た。デザイン責任者はヴィルヘルム・ホフマイスター。リアウインドウの柱が内側に折れ込む独特のライン「ホフマイスター・キンク」も、このとき生まれている。今日まで続くBMWらしさのスタイルは、この一台から始まった。
65年経って、BMWはこの言葉を再び看板として掲げ直した。ワーミングはこう語る。
「これは会社にとっての大きなステップなのです。同じことを繰り返すのではなく、革命的な一歩を踏み出すという決意でもあります」
ここ数年、メディアでは「ノイエ・クラッセ=本格EVシフト」という見方が広がってきた。2025年本国発表の最初の量産モデル「iX3」はフル電動。Vision Neue Klasseのコンセプトカー群も、すべて電気自動車だった。
しかし、ワーミング自身が説明するノイエ・クラッセは、それより少し広かった。
「ノイエ・クラッセはEVの話ではありません。あらゆる技術に開かれた、企業の哲学そのものです」
ノイエ・クラッセが指している範囲は広い。新しいデザインのルール、ソフトウェアで動かす車内の電子の仕組み、自社開発のOS「BMWオペレーティング・システムX」、運転者を中心に組み直した操作系。会社の作り方そのものが、この一語のもとで組み直されている。
車のパワートレイン(動力源)の選び方も、そのひとつにすぎない。燃焼エンジン、ハイブリッド、電気、トヨタと共同で進めている水素。EVは有力な選択肢だが、唯一解ではない、とワーミングは続けた。
「私たちは新しい技術に開かれていることが大事なのです。今あるものだけがすべてではないかもしれない。五つ目のアイデアがあるかもしれない」
考え方が先にあって、技術はその結果として並んでくる。これがBMW社内におけるノイエ・クラッセの本当の姿だった。
100パーセントBMW、できれば110パーセントBMW
BMW Group全体のデザインを率いるエイドリアン・ファン・ホーイドンクは、新世代のデザインを「100パーセントBMW、できれば110パーセントBMW」と表現する。新しさを盛るのではなく、もともとの自分を1割だけ濃くする、という意味である。
ワーミングはその下で、BMWの未来構想を社内で先に描くAdvanced Designと、自動車以外のクライアントとも仕事をするDesignWorks、二つの組織を率いる。社内と外からの刺激の両方に触れる立場の人物が、この日の取材に立った。
新型7シリーズで一番気に入っているディテールはどこですか。会場で、ワーミングにそう尋ねた。彼は車の真後ろに回り、テールランプの上、ボディが微かに肩を持ち上げる線を指で撫でた。
「ショルダーです。すべてのBMWに肩がある。一度知ると、フロントを見なくても、ああこれはBMWだとわかるようになる」
正面のキドニーグリルでもL字のテールランプでもなく、これまで話題にされてこなかった一本のライン。これを「最も推したい」と挙げた姿勢は、内装にも貫かれていた。ステアリング、ダッシュボード、アームレスト、コンソール。一つひとつを違う彫刻のように仕上げた、とワーミングは言う。
「絵画を細い筆と太い筆で描き分けるように、それぞれを別の彫刻として扱いました」
中央で浮かぶ横長のディスプレイ「BMWパノラミック・ビジョン」も、家具のように独立して立たせてある。運転に必要な情報を運転者の真正面に、好みで変えられる情報を右側に。視線は近くと遠くを往復せず、運転者の目は前方の道路にとどまり続ける。
「目はロード、手はホイール。これは私たちの重要な原則です」
ここに、BMWが世界のどんな変化のなかでも譲らない一線がある。クルマは、ハンドルを握って運転する人のための道具であるという姿勢。長年BMWが掲げてきた「駆けぬける歓び」は、ノイエ・クラッセの時代になっても揺らいでいない。
新型7シリーズという答え
では、新型7シリーズを具体的に見ていきたい。
正面には、これまでより細く、垂直に伸びた新しいキドニーグリル。BMWの一番のアイコンを、凛とした輪郭に整え直したかたちだ。レーダーもカメラもセンサーも、グリルの裏側に収められ、表面からは見えない。「100パーセントBMW、できれば110パーセントBMW」が指していた、余計な飾りをそぎ、必要な部分だけを濃くする仕事の、ひとつの結果と言っていい。
ヘッドランプは「BMW Iconic Exterior Illumination(BMWのアイコンとなる外装照明)」と呼ばれる、結晶のように研ぎ澄まされた光のサインを宿す。これは新型7シリーズだけのディテールではなく、ノイエ・クラッセがBMW全モデルに広げていく新しい「BMWの目印」のひとつである。
サイドには、ワーミングが指で撫でたあの肩。テールにはL字のランプ。
ラインアップの作り方にも、同じ考え方が現れている。フル電動の「BMW i7 60 xDrive」がまず登場し、一度の充電で581〜727km走る(欧州仕様)。さらにM Performanceモデルも追加が予告された。
変えたのは、表のディテールとスペックだ。整え直されたキドニー、結晶のような新しいヘッドランプ、新しい操作系、長くなった航続距離。
変えなかったのは、肩のライン、目線とハンドルの位置、ステアリングを握る運転者への眼差しである。
取材の終盤、こちらから尋ねてみた。さきほど「ショルダー」と表現した瞬間、クルマが急に人の顔を持って見えてきた。普段からそうした擬人化でデザインを語るのですか、と。

ワーミングはぱっと顔を上げ、笑った。
「これは初めて受ける質問ですね。なるほど、面白い指摘です」
彼は続けた。一番大きな買い物は家、二番目が車だと言われるほど、車とオーナーの関係は深い。単なる移動手段では終わらない、と。
「BMWは交通手段以上のものです。それはフィーリングなんですよ」
ハンドルを握る感覚、素材の手触り、フロントの顔つき。それらが組み合わさって、人はクルマと関係を結んでいく。良き友人になれるかどうかは、その顔つきを見ればわかる、と。
もうひとつ伝えておきたい。新型7シリーズが2026年内に日本に上陸するのに先立ち、2026年夏には、ノイエ・クラッセ第一弾の量産モデル「新型iX3」が日本での発売を開始する。日本のBMWノイエ・クラッセ時代は、まずこのSUVから幕が開く。
新しい操作系も、長くなった航続距離も、街角での一瞬には及ばない。すれ違った一台の肩のラインが視界に入った瞬間、私たちはおそらく、ワーミングの言う「フィーリング」を、ふっと感じ取る。
ああ、これはBMWだ、と思うと同時に、形には現れない「未来のイメージそのもの」を受け取ることになる。

新型 BMW 7シリーズ
2026年の改良で次世代EVの技術を融合し、圧倒的な存在感と知性を備えたセダンへと進化。全長約5.4mの巨体に381馬力の直6 48Vハイブリッドを搭載し、後席には31.3インチのシアタースクリーンを備える。EV版i7は航続700km超(欧州仕様)を誇り、移動空間の価値を極限まで高めている。
BMW Japan
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