ヒトが今もしゃっくりをする理由
成人において明確な機能を果たしていないなら、なぜしゃっくりは、進化の過程で淘汰されなかったのだろう、と考えたくなるのはもっともだ。けれどもこうした疑問は、自然選択の仕組みを誤解している。自然選択は、生存と繁殖を妨げる形質を消し去るようにはたらく。一方、害にも益にもならない中立的形質については、それを消し去るような淘汰圧が作用しないため、半永久的に残存することもある。
しゃっくり反射は、ヒトの神経回路の配線と深く結びついており、その配線はほかに重要な機能を担っている。反射を消去するには、脳幹の精密な再配線という、高コストな過程が必要であり、仮にそれをしたところではっきりした恩恵が得られるわけでもない。だからしゃっくりは消えなかった。有益な反射ではないかもしれないが、ひどく有害な、消去するに値するものでもなかったのだ。
このようなパターンは、生物界に広く見られる。人体は、最適化された精密機械ではない。再塗装に再塗装を重ねた年代物であり、最も新しい層の下には、以前の層が透けて見える。盲腸も、鳥肌反射も、尾骨も、親知らず(智歯)も、みなこうした昔の名残りだ。
しゃっくりは、こうした「進化的な脚注(補足)」に属している。私たちが慌てて物を食べたときなどに一時的に出現する、過去の遺物なのだ。
次にあなたの横隔膜が、頼んでもいないのに痙攣し始めたときは、これは瓶に詰めて流されてきたメッセージなのだ、と思うことにしよう。その送り主は、あなたが誕生する3億7500万年前に、デボン紀の温かな浅瀬で、エラ呼吸をして生きていた動物なのだ。


