しゃっくり(hiccup)には、どこか、人を謙虚にさせるところがある。予期せぬタイミングでやってきて、何の理屈も通用せず、自分の都合で去っていく。取るに足らない現象でありながら、しゃっくりに関しては、驚くほど多くの真剣な科学的探究が行われてきた。
人がしゃっくりをするとき、実際のところ何が起こっているのか? 研究者たちがこの謎を掘り下げるほど、その答えは、悠久の歴史に連なる、実に奇妙なものへと姿を変えてきた。
簡潔に言えば、しゃっくりをする瞬間、あなたはある意味で、オタマジャクシの呼吸パターンを一時的に再起動させている。詳しい説明をするには、3億7500万年にわたる脊椎動物の進化の歴史をたどる必要がある──そしてその物語は、驚くほど興味深いものだ。
しゃっくりとは何か?
しゃっくりは、医学用語では「singultus(シンガルタス)」と呼ばれ、この言葉はラテン語で「すすり泣き」を意味する(日本の医学用語は吃逆(きつぎゃく))。
機構的に言うとしゃっくりは、胸部の肋間筋と連動して起こる、横隔膜の不随意痙攣(けいれん)として説明できる。痙攣とほぼ同時(約35ミリ秒以内)に、声門(声帯の隙間の開口部)が急激に閉じる。この声門の突然の閉鎖が、「ヒック」という特徴的な音の発生源だ。「ヒック」は、呼吸音ではなく、いわばドアが勢いよく閉じる音なのだ。
こうした一連の動作は、高次の認知を司る脳部位ではなく、脳のなかで最古の構造の一つである「脳幹」によって制御されている。正真正銘の反射であり、そのため、意識的な制御を完全に迂回する。意志の力でしゃっくりを断つことはできない。それは、眼に向かって何かが飛んできたときに、まばたきをせずにはいられないのと同じだ。
しゃっくりに関与する神経回路として、迷走神経、横隔神経、延髄、視床下部・網様体が挙げられる。注目すべきは、これらの構造がいずれも、すべての脊椎動物に共通のものであり、ヒトにとってかなり遠い親戚にも見られることだ。
しゃっくりは、魚だった過去の名残り?
しゃっくりを理解するには、まず、横隔神経にまつわる奇妙な事実を頭に入れておく必要がある。横隔膜の動きを制御するこの神経は、不可解なほど遠回りなルートを通っている。頭骨に近い頚椎(上部頸椎)から出発し、胸腔のなかを蛇行したのち、ようやく、「職場」である横隔膜に到達するのだ。
人体のデザインについてエンジニアに意見を尋ねたら、間違いなくダメ出しされそうだ。横隔神経は、もっと目的地に近いところから出発するように配線する方が、ずっと理にかなっている。
そうなっていないのは、人体はヒトがデザインしたものではないからだ。古生物学者のニール・シュービンが2008年の著書『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト――最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅』(邦訳:早川書房)で論じたように、私たちヒトは、横隔神経のこの配線を、祖先である魚から受け継いだ可能性が高い。横隔神経は、魚ではエラの制御を担っていて、エラは頭骨のすぐ隣にある。



