アート

2026.04.11 15:00

日本の現代アートシーンを「定点観測」してみたら|アートな数字

德山拓一|森美術館シニア・キュレーター(ベルリン在住の和田礼治郎による《MITTAG》は、ブランデーを用いた立体作品。作品越しに外を眺めると、東京の街が琥珀色に染まって見える。ブランデーは蒸発するため、会期中につぎ足したという。)

德山拓一|森美術館シニア・キュレーター(ベルリン在住の和田礼治郎による《MITTAG》は、ブランデーを用いた立体作品。作品越しに外を眺めると、東京の街が琥珀色に染まって見える。ブランデーは蒸発するため、会期中につぎ足したという。)

展覧会、芸術祭、フェア、オークションなど多彩な話題が飛び交うアートの世界。この連載では、毎月「数字」を切り口に知られざるアートな話をお届けしていく。4人のキュレーターが共同し、21組の作家を紹介する展覧会から見えてくるものとは。

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今月の数字|定点観測は、変化や現状を俯瞰するのに役立つものだ。それをアートシーンで続けているのが、森美術館の「六本木クロッシング」シリーズ。2004年から3年おきに開催され、今回が8回目。旬の作家を見せるだけでなく、その時々の社会情勢と重ねることでアートの現在地を表現している。
今月の数字|定点観測は、変化や現状を俯瞰するのに役立つものだ。それをアートシーンで続けているのが、森美術館の「六本木クロッシング」シリーズ。2004年から3年おきに開催され、今回が8回目。旬の作家を見せるだけでなく、その時々の社会情勢と重ねることでアートの現在地を表現している。

「時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」。一見、逆説的でもあるこの言葉は、展覧会「六本木クロッシング」の副題だ。森美術館は2004年から3年に一度、日本の現代アートシーンを定点観測する展覧会として同シリーズ展を開催してきた。その第8回が、25年12月3日から3月29日まで開催された。

冒頭の通り「時間」をテーマにした本展では、日本で活動する、もしくは日本にルーツがあり海外で活動するアーティスト21組を紹介。共同キュレーターのひとり、德山拓一(森美術館シニア・キュレーター)はテーマについて、「紛争や格差など社会の諸問題が多様化し、分断されるなかで、多くの人々が共有できる最大公約数をとった」としつつ、「短い時間軸に影響されない美の本質、人類と共存してきた芸術の普遍性に目を向けることが裏テーマであった」という。

生成AIが浸透して以来、変化の速度はさらに加速し、あらゆる“最新”は瞬く間に広がっては消え、効率ばかりが求められている。その流れとは違う時のあり方を見せる構成だ。

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德山が同館に参画してから10年。アートシーンには多様性や多文化主義が広がり、工芸的な手法や表現が注目されるようになった。

「女性や有色人種など、現代美術史のなかで見過ごされてきた人々が掬い上げられることで、彼らが“名のない職人”たちが重ねてきた技術や表現に光が当たるようになりました」。またそれは、現代美術が“コンセプト”を重視するが故に“技術”を否定してきたことへの揺り戻しでもあり、両者の共存や、手仕事の美しさを再評価する潮流でもあるという。

例えばロサンゼルスを拠点とする作家のケリー・アカシ。ガラスで花を表現した儚くも美しい作品を、德山は「2年前に偶然知り、DMしてアトリエに押しかけて出展を相談した」と明かす。また陶芸家の桑田卓郎については、「ブロンズを使うなど陶芸の枠を超えながら、陶芸でしか表現できない造形を追求している。数百年の歴史に裏打ちされた表現」だという。

こうした現在のシーンをとらえるにあたり、いちキュレーターの主観でなく、レイヤーを増やして多様な表現を目指すべく、「六本木クロッシング」は初回から複数人の共同キュレーションで行ってきた。13年以降は海外キュレーターを招いている。

「何を日本的と思うかは人それぞれ。アーティスト自身も日本を意識していることは少なく、メディアや批評家から聞かれて意識するとも聞く。その意味でも、外からの視点を入れることが、日本をとらえることにつながる」と德山。本展は4人で約2年前から動き、できる限り一緒にリサーチに行くことでテーマを深めてきたという。

どこからが工芸でどこからが現代美術なのか。何が日本的なのか。境界が混ざり合い、カテゴリが不明瞭。整理して理解するのが難しいのが日本の現代アートシーンの現在地なのかもしれない。ありのままを映す「六本木クロッシング」は、3年後にまた開催される予定だ。


德山拓一◎森美術館シニア・キュレーター。京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAを経て、2016年より現職。同館にて直近は「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」(24年)を担当。20年より東北芸術工科大学客員教授。

文=鈴木奈央 写真=苅部太郎 書=根本充康

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