筆者はMacintosh以前からアップルを取材してきた。スティーブ・ジョブズが初代Macを披露する場にも立ち会った。90年代の瀕死の局面から、世界で最も価値ある企業へと駆け上がるまで、すべてを見てきた。だからこそ、ティム・クックがエグゼクティブ・チェアマン(執行会長)に就任する(2026年9月1日付)という動きは、決定的な転換点になると考える。クックの新たな役割であるアップルの「最高外交責任者」は、CEOとしての在任期間と同じくらい、会社の将来を形づくる可能性がある。
クックはCEOの職をジョン・ターナスに引き継ぐ。ターナスはクラフトマンシップへの情熱を持つハードウェアの天才といえ、アップルのレガシーを継ぐにふさわしい後継者だ。だが本当に注目すべきはクックの移行である。筆者の見立てでは、クックがアップルの世界的影響力を再定義しかねない役割へ踏み出すという、歴史的な転換を私たちは目撃している。
アップルはクックの新しい役割を簡潔に説明した。世界の政策立案者との協働を含め、会社の一部領域を支援するという。控えめに聞こえるが、そうではない。
アップルが舵取りを迫られる世界
アップルはおそらく、米国企業の中で最も地政学的リスクにさらされている企業である。製造の80%以上が中国を経由しており、そのインフラは過去30年かけて構築されてきた。欧州では最大級の小売網を持ち、規制当局は米国テックを抑え込むための試金石としてアップルを扱ってきた。70カ国で20億台超のデバイスのデータを保管し、現在の成長は製造の代替先としてのインドに依存している。
CEOとしてクックは、4000億ドル規模の事業を運営しながらこれを管理してきた。彼は多くの外交官より頻繁に中国を訪れた。欧州委員会の委員らと交渉し、自身が受け入れ可能な条件で折り合いをつけた。ワシントンD.C.の政権とも、シリコンバレーの同業者には見られない形で関係を維持してきた。
今や彼が担うのは、対外関係だけでよい。



