会長職という立場の優位
クックに近い人々は口を揃えてこう言う。彼は一貫して、CEOという職務の地政学的側面を最重要課題の1つであり、在任期間で最も未完の仕事だと見なしていた、と。
エグゼクティブ・チェアマン(執行会長)として、クックはロビイストではなく、地球上で最も認知されたテクノロジーブランドの顔として世界のどこへでも赴く。アップルの製造投資、App Storeの影響力、雇用創出力、そして複数大陸にまたがるソフトパワーを携えている。これは強力なカードである。
アップルは今も関税に規定された世界貿易環境の中で航路を探っており、地政学的緊張は一段と強まるばかりだ。ワシントンでは、中国依存を正当化するのではなく現実主義を訴えなければならない。すなわち、アップルのサプライチェーン多様化はスイッチを切り替えるようにはいかず、年単位を要するプロセスだと論じる必要がある。同時に彼はニューデリー、ブリュッセル、リヤド、東京にも足を運び、譲歩を引き出そうとしつつ、各国政府が「アップルに対して実際のレバレッジを握っている」という認識を強める状況の中で動くことになる。
筆者は、経営者がこの種の外交を試みて失敗するのを見てきた。外交をロビー活動として扱ってしまうからだ。クックは違いを理解している。本当の外交は、長期にわたる関係、守られる約束、そして目先の利益がなくとも姿を見せることに依拠する。
欧州と中国
欧州は、クックにとって最も厳しい試練になり得る。デジタル市場法(DMA)は、アップルと欧州委員会の間に現実の緊張を生んだ。敵意ではないが、無視できない摩擦である。ブリュッセルで起きたことは、たいていブリュッセルにとどまらない。クックは、アップルのプラットフォーム方針が「原則を装った事業戦略」ではないことを示さねばならない。産業規模のデータ搾取が横行する時代において、プライバシーとセキュリティこそが正しい答えだと主張する必要がある。欧州の規制当局がその主張を受け入れるかどうかは別問題だが、彼らは直接それを聞く必要がある。
中国はさらに繊細だ。アップルは製造をインドやベトナムへ移しつつあるが、中国は今後数年にわたりアップルのサプライチェーンの重力中心であり続ける。クックは、ワシントンが目指す「中国製造への依存低減」を支持しつつ、北京との生産的な商業関係と外交関係を維持しなければならない。企業史に前例がほとんどない綱渡りである。
決定的なのは、クックが双方から信認を得ている点だ。北京との数十年にわたる関与に加え、国内の労働力、納税、米国投資といった要素を含むアップルの強い「米国企業としてのアイデンティティ」が、彼に両首都での発言力を与えている。双方が時に彼を「扱いにくい」と感じるという事実は、筆者の見立てでは、彼が正しくやっていることの証左である。


