ミズーリ州の農家に生まれたロバート・ロー(76)は、大学を中退して立ち上げた運送会社を米国有数のトラック輸送帝国に育て上げた。一時的な心神喪失を理由に、刃渡り8インチの狩猟用ナイフで友人を背中から刺すという第1級暴行罪の刑事裁判で無罪となり、破産の危機も乗り越えてきた。推定純資産50億ドル(約7900億円。1ドル=158円換算)のビリオネアの半生を追う。
ケンタッキーダービー有力馬レネゲイトを育てた牧場
第152回ケンタッキーダービーの開幕(5月2日)まで1週間――トラック輸送業界の大物ロバート・ローは、いつもとは違う「積み荷」の行方を追っていた。ミズーリ州スプリングフィールド郊外にあるローの牧場で育った3歳の牡馬レネゲイトが、4月のアーカンソーダービーで勝利した後、マイアミから空路でケンタッキー州ルイビルに到着したばかりだった。
「レネゲイトが無事到着して、厩舎に入ったという知らせの電話を待っているところだ。あの馬はおおらかな性格なんだ」と、ローは南部なまりのしゃがれた声で笑う。
ローは妻ラワナとともに、スプリングフィールド中心部から車で15分ほどのオザーク山地の丘陵地帯にある競走馬生産牧場「プリマタラ・ファーム」でレネゲイトを育て上げた。高校時代からの恋人同士で、1973年に結婚した2人は、約30年にわたって競馬に関わり、約121万平方メートルのこの牧場で数百頭のサラブレッドを育ててきた。その中には、2006年のケンタッキーダービー出走馬のステッペンウォルファーや、2018年の同レース出走馬マグナムムーンも含まれる。
ローにとってレネゲイトは、長年追い求めてきた「自らの牧場から送り出すダービー有力馬」を体現する存在だ。「我々は30年間、競馬ビジネスに携わってきた。こういう馬を持つことをずっと夢見ていた」とローは語る。
ブルガリア大理石を使った宮殿のような邸宅と純資産7900億円
ロー夫妻の宮殿のような約6500平方メートルの邸宅は、牧場からほど近い場所にある。トラック輸送で築いたローの富を象徴するこの邸宅は、輸入したブルガリア産大理石で建てられ、6つのゲストスイート(各室に簡易キッチンと独立したリビング・ダイニングを備える)、17の浴室、約560平方メートルのワインセラー、ボールルームを兼ねた12台分のガレージ、競馬場のジョッキークラブをテーマにしたゲームルームを備える。「友人とパーティーを開くこともあるが、それよりも慈善イベントやオークション、そして我々が支持する政治家のための集まりに使うほうが多い」とローは語る。
2000年以降、共和党候補者や政治活動委員会(PAC)に800万ドル(約12億6000万円)を献金したローは、2024年にはドナルド・トランプに50万ドル(約7900万円)を献金した。彼の富の源泉は、1970年に母親と共同創業し、米国最大級の非上場運送会社に育て上げた冷蔵トラック輸送大手「ニュー・プライム」だ。同社の2025年の年間売上高は推定25億ドル(約3950億円)を超える。50年以上をかけてプライムを数十億ドル規模の企業帝国に成長させたローは、推定50億ドル(約7900億円)の純資産を持つミズーリ州有数の富豪となった。
1万人のドライバーを支える独立請負業者モデル
気取らない親しみやすさを強みとするローは、多くのドライバーを引きつけてきた。彼らはローと同じように、自分も独立した事業者として成功できると信じている。ただし、ローが独自に生み出した巧みなビジネスモデルは、リスクと運営コストの大半を、ドライバー側に負わせる仕組みでもある。
プライムはロー夫妻が全株式を保有し、ロー自身がCEOを務める。「私は、ドライバーと一緒に昼食を取る」とローは語る。「金曜朝にはドライバーとのミーティングを開く。彼らは聞きたいことを何でも聞けるし、言いたいことを何でも言える」とも続ける。社内ジムで即席のバスケットボールに加わったり、カフェテリアに姿を見せたりすることもある。
ローは、競争に勝つことと効率に徹底的にこだわる経営者ではあるが、プライムは大半の大手運送会社とは異なり、ドライバーのほぼ全員を独立請負業者に頼っている。同社の1万人規模のドライバーのうち、90%が独立請負業者だ。彼らはオーナーオペレーターとして、本来なら運送会社が負担するトラックの支払い、保険、車両整備、管理費などの費用を自ら背負う。こうした費用は重く、見通しが立てにくい。
しかも、彼らは独立請負業者ではあるものの、プライムから独立しているわけではない。ドライバーは、ローが所有するプライムの関連会社サクセス・リーシングからトラックをリースしたり購入したりしている。荷物の割り当て、燃料割引、ソフトウェアについても、プライムの物流ネットワークに依存している。プライムは、この仕組みによって労務コストを帳簿に載せずに済む一方、現場の運営を実質的に管理下に置ける。プライムは通常、輸送収入の28%を自社で受け取り、残りをドライバーに渡す。
「独立請負業者は、自分で燃料を買い、自分でトラックの支払いをし、自分の負担でタイヤを使う。そこにはもともと効率性がある。彼らはより効率的にやるようになる」とローは主張する。「これは素晴らしいモデルだ。人々は自然な形で起業家精神を持つようになり、より効率的になる」。



