スタートアップへの助言に潜む生存バイアス
問題は成功事例が不完全であることだけではない。それらが失敗を体系的に排除している点にある。
巨額の資金調達に成功して積極的に事業を拡大し、その分野を席巻する企業がある一方で、同様の道を歩みながらも失敗した企業も数多く存在する。そうした事例は表に出ることが少なく、さほど分析されることもなく、フレームワークとして語られることもほとんどない。
コワーキングスペースのWeWork(ウィワーク)を考えてみるといい。長年にわたって同社は大胆なビジョンと急速な事業拡大の模範として称賛されてきた。驚異的なスピードで世界に事業を広げ、多額の資金を調達し、オフィスの概念を一新したとして評価されていた。
積極的な事業拡大や高い資金消費率、カリスマ的リーダーシップといった、後に批判された多くの戦略的決定は当初、強みとして受け止められていた。それらは急成長するスタートアップの理想像に合致していたからだ。
しかし状況が変わり、同社の経済基盤が精査されると、かつて下されたそうした判断は明らかな誤りとして再解釈された。
変わったのは過去ではない。どう見るかという視点だ。
これが生存バイアスの核心だ。単に失敗を隠すだけでなく、成功への理解を歪める。その結果、創業者たちは運の要素が排除され、リスクが過小評価されたデータセットから学ぶことになる。
不確実な世界における判断の設計
成果が創業者のコントロールの及ばない要因によって部分的に左右されるとしても、それは戦略が無意味だということではない。戦略を策定する際には不確実性を念頭に置かなければならないということだ。
その出発点は視点の転換だ。正しさではなく、堅実さを目指すことだ。
堅実な戦略は予測が外れたりスケジュールが遅れたり、また外部環境が変化したりすることを前提とする。1つの想定される結果に向けて最適化を図るのではなく、柔軟性と余裕を組み込む。財務面では資金余力を確保する、採用を慎重にする、成功のために完璧な実行を前提とするようなコミットメントを避ける、といったことを意味する。
また、他者から学ぶ際にもより批判的な姿勢が求められる。「この成功した企業は何をしたのか」ではなく、「これらの決定からどのような結果が生じ得たのか」と問う方が有用だ。このように問いを変えることで、再現可能な原則と状況に左右される偶然の要素とを区別できる。
最後に、創業者は自身の思考の中に運の要素を明確に取り入れることで恩恵を得られる。これは成功や失敗をすべて偶然に帰することではない。完全には予測も制御もできないものによって結果が左右されることを認識するということだ。こうした認識はより慎重で適応的な判断につながる傾向にある。この資質は大胆だが脆い戦略よりも価値が高いことが多い。


