1. 進化は、老化に伴う疾患や衰えを認識しない
この論理をいち早く、首尾一貫した形でまとめたのは、ノーベル生理学・医学賞を受賞した免疫学者ピーター・メダワーだった。「生物学の未解決問題(An Unsolved Problem of Biology)」と題した1952年の論考のなかでメダワーが提唱した仮説は、現在は「変異蓄積仮説(Mutation Accumulation Theory)」として知られている。
その論理は実にシンプルだ。仮に、ある遺伝的変異は、その持ち主に重大な害をもたらすが、それが顕在化するのは、生殖開始年齢を大きく超えた後だとしよう。この場合、その変異が発現するまで長生きする個体がほとんどいない集団においては、自然選択はこの変異をほとんど制御できない。
したがって、このような変異は、実質的に不可視化される。自然選択が関心を失う「生涯の終盤」まで先延ばしされてきたダメージは、選択されることなく集団内に潜伏し、親から子へと、世代を超えて継承される。
メダワーは、このような変異の典型例として、ハンチントン病の原因遺伝子を挙げた。ハンチントン病は、1つの顕性アレル(ペアになる対立遺伝子[アレル]のうち、片方だけが変異を持つ場合でも、その形質が優先的に表現型として発現する遺伝子)の変異が原因で起こる、致死的な神経変性疾患であり、通常は30~40代で発症する。
ファビアンとフラットは、総説論文の中で次のように論じた。「ハンチントン病は通常30歳以上の人にしか影響を与えないため、先史時代の祖先集団においては、効率的に選択が進まなかったはずだ。祖先集団において、たいていの人は、この遅発性疾患を発症するずっと以前に死亡したからだ」
つまり、このアレルが集団に存続したのは、それが有益だからではなく、自然選択によって事実上認識されなかったからなのだ。視野を広げ、こうした現象が数千の遺伝子において、数百万年にわたって続いてきたことを考えれば、全体像が浮かび上がる。私たちのゲノムは、自然選択にとって排除すべき理由のない、遅発性の有害変異でいっぱいなのだ。
このような枠組みで考えると、老化は、事前に設計されたものというより、むしろ「進化の見落とし」の結果といえる。自然選択の盲点の中に蓄積してきた、遺伝的欠陥の残骸なのだ。
2. 進化は、長寿よりも生殖に対してリソースを配分している
進化生物学者のジョージ・C・ウィリアムズは1957年、メダワーの枠組みをさらに発展させた論考を、学術誌『Evolution』上で発表した。生涯の終盤に害をもたらす遺伝的変異の中には、単に自然選択に容認されているだけでなく、むしろ選別(優遇)されているものもあるとしたらどうだろうか? 遺伝的レベルで見ると、若々しさと長寿が、本質的に緊張関係にあるものだとしたら?
これは、拮抗的多面発現(antagonistic pleiotropy)仮説と呼ばれる。多くの遺伝子は、一つの仕事をするだけでなく、いくつものライフステージにわたって、複数の形質に影響を及ぼす。ウィリアムズは、若い頃に適応度を上昇させる(成長を加速させ、生殖確率を高め、免疫を強化する)遺伝的変異は、同時に、生涯の終盤に害をもたらす可能性があると論じた。そして、自然選択の作用は、若い頃には強く、老いてからは弱いため、こうした変異は全体として優遇される。
進化的に見ると、生涯の早い段階での利益は、先送りされた損失を上回る。これは、コストが重大ではないからではなく、コストを支払う前に死亡している可能性が高いためだ。


