日本だから、できること
26年1月、日本ラグビーフットボール協会は正式に35年の男子ラグビーW杯招致を表明した。 19年の感動が再び戻ってくるのが楽しみだが、土田は単にスポーツイベントだけで終わらせるつもりはない。
「招致にはスポーツやラグビーの発展という目的もありますが、『ノーサイドスピリット』を世界の共通言語にしたいという思いもあります。 今、世界を見渡せば戦争が起こり、国や社会の分断が起こり、貧困や教育など格差が広がっています。 分断を越え、人類をつないでいくために、今こそノーサイドスピリットを合言葉にして、発信していくべきではないか」
実は、それは大人だけの発想ではなかった。 25年末、花園で行われた全国高校ラグビー大会で関西学院高校の西浦章博主将が選手宣誓でこう訴えた。
「多くの人の支えと応援があったからこそ、私たちはここにいます。 ここにいるすべての者が、勝利の喜びだけでなく、敗北の悔しさも、相手チームの思いも知っています。 多様性がうたわれつつ、分断や争いが起きるこの時代に、私たちがノーサイドの精神を体現する意味は大きいはず」
その宣誓を聞いた土田は、次世代にも同じ課題意識があることに驚いたという。 同時に、招致を契機としてノーサイドスピリットや礼を重んじる日本の文化を発信していく意志を、あらためて固めたそうだ。
「例えば、フランスでは柔道がとても人気ですが、それはフランスが移民の国であることが関係しているといいます。 柔道の礼節を通して、多様な背景をもつ子どもたちが、他者への敬意や礼儀を学ぶことができる。 人を尊重し、規律と品位をもって結束して情熱的に動く。 まさにノーサイドスピリットが世界から求められていることの証左です」
まずはこのノーサイドスピリットという言葉を国内に普及させていくと土田は言う。
「ただ、言葉を掲げただけで伝わるものではありませんから、協会として地道な活動を行っていこうと考えています。例えば、子どもたちも試合後に健闘をたたえあうようになりましたし、大人が口出ししない子ども主導の大会もあります。でも、ラグビーを実際に見てもらうことが何よりも伝わると思っていますので、まずは、試合を見に来てほしい」
ラグビーだからできることがあり、日本だから世界にメッセージを届けることができる。 日本発のノーサイドスピリットが世界をつなぐ日も近い。
W杯日本開催までの道のり
「ノーサイドスピリット」を掲げ、ラグビーの精神を広めることを目的に2035年のワールドカップ招致を目指す日本ラグビーフットボール協会。27年は豪州、31年には米国での開催がすでに決まっており、35年大会では南米や欧州の国々がライバルになるとみられ、決まれば19年大会以来のアジア開催となる。正式決定は27年11月の予定。
つちだ・まさと◎1962年生まれ。秋田工業高校時代に高校日本代表に選出され、同志社大学時代は大学選手権3連覇を達成。日本代表キャップは1。現役引退後はサントリー監督として日本選手権で3度優勝。2022年、日本ラグビーフットボール協会会長に就任。現在、サントリーホールディングス常務執行役員。



