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2026.05.26 16:00

AI構想を「使い続けられる実装」へとつなげる――デロイト トーマツが提言する成果を生む「CoE 2.0」への転換

進化が著しいAIは、今や“便利なツール”の域を超え、「競争力の中核」へと変わりつつある。しかし、多くの企業がいまだ本番導入に至っていないのが現状だ。こうした停滞を脱し、スケール実装へ導くアプローチとして、デロイト トーマツが提唱するのが「CoE 2.0」だ。

同社パートナーの下川憲一、ディレクターの上平安紘、高田普丈に、日本企業が抱える課題とCoE 2.0の要諦について話を聞いた。


「CoE 2.0」でカギを握るFDEとDSの存在

――AIを取り巻く日本企業の現状についてお聞かせください。

下川憲一(以下、下川):生成AIが2022年後半で登場した後、2023年ごろから急速に普及し、多くの企業で現場主導の試行導入(PoC)が行われました。しかし、PoCの件数が増える一方で、本番導入に至るケースは依然として限定的です。背景にあるのは、効果(ROI)の可視化やデータ整備、監査、セキュリティ、ガバナンス、運用など、投資判断を満たすための要件が、PoC段階では設計しきれない点にあります。本番導入においては、KPIや品質、リスク低減価値、総コストを測る「測定設計」に加え、誰が・いつ・どの方法で説明するかといった「価値実現プロセス」の定義が不可欠です。しかし、現場主導では、こうした全社的な枠組みでの設計に限界があるのが実情です。その結果、「便利だから始めたPoC」と、経営層が求める「損益計算書(PL)に貢献する成果や全社統制」との間にギャップが生じ、導入の障壁となっています。

今後は導入して終わりではなく、業務統合から成果創出までを見据えた取り組みが不可欠です。AIと既存システムとの連携を前提に適用領域を見極め、確実に成果を出すには、通常の開発力に加えて、大規模言語モデル(LLM)や検索拡張生成(RAG)、データ運用・統制、さらには業務理解を横断できる人材が求められます。こうした背景から、現場に深く入り込み、実装から定着までを担う「FDE(Forward Deployed Engineer)」、上流の課題整理や価値設計・価値実現プロセスを設計する「DS(Deployment Strategist)」といった新たな役割の重要性が高まっています。

下川憲一 デロイト トーマツ パートナー
下川憲一 デロイト トーマツ パートナー

――生成AIやAIエージェントの本番導入を進めるには、どのような課題があるのでしょうか。

上平安紘(以下、上平):まず、開発リソースの確保が大きな課題です。特に専門人材の不足は深刻で、自社だけで必要な体制を整えることは容易ではありません。また、従来のシステムは、定義されたアウトプットの安定出力を前提としてきましたが、生成AIやAIエージェントは挙動を完全に制御することができず不確実性が残ります。ゆえに、この特性を織り込んだうえで業務を安定稼働させる仕組みづくりが求められます。

現時点では確立された統制の方法論はなく、各社が試行錯誤で自社に適した運用体制を模索している段階です。足元では、活用範囲が限定的であるため大きな問題は生じにくいものの、社内利用の拡大や顧客向けサービスへの展開が進むにつれて、ガバナンスや運用体制の整備は不可欠になり、こうした課題は、早ければ今年末から来年にかけて一層顕在化するでしょう。

上平安紘 デロイト トーマツ ディレクター
上平安紘 デロイト トーマツ ディレクター

――そうした課題を解決するには、どのような推進体制が必要なのでしょうか。

下川:本番移行を見据えると、AIトランスフォーメーション(AX)推進を担う「AI-CoE (Center of Excellence)」組織を再構築し、PoCから運用段階までを適切にマネジメントする必要があります。現在は、CoEの位置づけそのものが大きく変わりつつあります。2023年当初、いわゆる「CoE 1.0」の段階における役割は、PoCを円滑に推進することにありました。現場が試行錯誤しながら実験を進めるための環境を整備し、その管理を担う役割です。また、生成AI特有の事象であるハルシネーションやデータ漏えいなどのリスクに対応するため、ガバナンスの整備に注力していました。しかし現在の「CoE 2.0」では、本番化を前提とするため事業としての価値、すなわちPLへの貢献が求められます。CoEには、単なるPoC推進ではなく、事業価値を継続的に創出するための支援が求められるようになっています。

本番環境では顧客向けサービスへの展開も進むため、ガバナンスやセキュリティの確保も不可欠です。つまり、価値創出とガバナンスの両立をいかに実現できるかが、CoE 2.0の重要なミッションとなっています。

上平:AXの拡大には“AIの運用が健全に機能する”ことが大前提となります。そのため、CoEは開発ガバナンス(ガイドラインやゲート管理、運用の健全性評価)を徹底する必要があります。ビジネス課題に基づいて開発要件を定義し、設計された手順に沿ってAIエージェントにタスクを実行させ、回答品質や妥当性をモニタリングし持続的に運用の健全性を担保する、こうした運用モデルを確立することが重要です。

――健全に機能させるためには、どのような人材配置が必要なのでしょうか。

上平:現場と開発を橋渡しする役割として、先述のFDEやDSが重要な役割を担います。CoEからこれらの人材を適所に配置し、現場ニーズを的確に把握しながら、それをAI適用や製品化へとつなげていく仕組みを構築する必要があります。とりわけFDEは、アイデアや課題を迅速に具体化する初期フェーズを担い、価値検証を高速で回す役割を果たします。一方でDSは、技術をビジネス価値へと翻訳する役割を担い、AIを単なる利便性にとどめず、事業としての意義やROIを明確にしていきます。

このFDEとDSがフロントに立つことで、本番移行時にも、ROIや事業価値を明確化できる体制ができます。まずインパクトの大きなテーマを見極め、共通ツールで短期実装可能か、あるいは専門開発が必要かのスコープ判定をし、最適なアプローチを選択していきます。開発では多様なエンジニアリング人材の連携が不可欠です。例えば、基盤やアーキテクチャを支える人材、PoC段階を担当する人材、本番環境に向けたエンタープライズ開発を行う人材、運用・保守を担う人材など、それぞれの専門性を組み合わせることで、はじめて持続的な価値創出が実現します。

「トークンベースの経済」では各業務の価値の見極めが重要

――AIの本番移行には、データの整備も重要です。日本企業が十分でない要因は、どういったところにあるのでしょうか。 

高田普丈(以下、高田):理想は、データレイクのような統合基盤に情報が集約された状態です。しかし、実際には多くの企業で部門単位にデータがサイロ化し、分断されたままになっているのが実態です。この状態では、AIが全社横断的に情報を活用できず、これが現在の大きなボトルネックになっています。

AI投資を回収するという目的に照らすと、差別化の源泉となるのは、外部から取得できる汎用データではなく、社内に蓄積された固有データです。業務や顧客接点のなかで何が起きているのか、今後どうしたいのかという一次情報を活用できなければ、競争優位は生まれません。たとえAI技術が進歩したとしても、それを生かすためのデータの整備が不十分であれば、成果は得られないでしょう。

高田普丈 デロイト トーマツ ディレクター
高田普丈 デロイト トーマツ ディレクター

――そうした課題を解決するためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。

高田:AIにとって「燃料」であるデータの質と量が、成果を大きく左右します。そのため、まずは何が必要なデータかを見極めることが出発点となります。扱うデータの種類は以前より格段に広がっており、それぞれを整備し、AIが学習できる形で取り込む必要があります。加えて、データの意味や関係性を整理し、AIが文脈を踏まえて活用できるようにするためには、オントロジーの整備も重要です。ただし、一度にすべてを整備すると、膨大な時間とコストがかかります。可能な限り自動的にデータが蓄積される仕組みを構築することが重要です。

実行においては、ビジネスでのAI・データ活用をイメージした「Back Cast」方式、その時点のビジネスに必要なものに絞る「Start Small」、そしてデータ整備、改善サイクルを組み込む「Learn First」が有効です。AIデータ活用では、従来のビジネスデータに加え、メタデータ、コンテキストデータを含めたセマンティックレイヤーの整備がAI・データ活用の質に直結するため、必要なデータを特定のユースケースや部門、横断的なテーマに絞って活用可能な状態を構築し、そこで得られたノウハウを横展開することで、全体最適へとつなげます。概念や用語の定義を統一するオントロジーは、セマンティックレイヤーの基盤として重要な役割を果たします。初期段階でルールやガイドラインを明確に定義することで、改善を重ねながらAI活用を進められます。

ユースケースを検討する際の重要な観点として、ROI(期待インパクト)の見極めと、データ取得の実現性があります。構想として成立していても、必要なデータが揃わなければ実現は困難です。

――AXを実効性あるものにするために、経営者にはどのような姿勢が求められるのでしょうか。

下川:AIの普及によって「トークンベースの経済」へと移行しつつあります。従来のITシステムでは、ヘッドカウントを基にある程度のコスト予測が可能でした。しかしAIは、入力や出力のたびにトークンが消費され、それが積み上がるため、使い方次第でコストが大きく膨らみます。ゆえに、コストの予測やコントロールがこれまで以上に難しくなるため、各業務の価値を見極め、どのくらいのコストをかけるべきかを、より正確に判断する必要があります。そのためにも、AIは競争を左右する経営の中枢に位置付けるべき機能となっています。したがってCoEは、グループ会社ではなく本体に設置し、全社横断で統括すべき機能と捉える必要があります。

――AX実現に向け、デロイト トーマツの強みはどこにありますか。

下川:デロイト トーマツは、競合に先駆けてAI投資を行ってきました。そのため、2023年のCoE 1.0フェーズから顧客プロジェクトに参画してきた実績があります。その過程で、成功例だけでなく、つまずきや本番移行時の課題、さらにはCoE 2.0で求められる要件まで、実践知を蓄積してきました。これから本番移行に進もうとしている企業は、段階的にではなく、一気に2.0レベルへ移行する必要があります。当社の強みは、この移行に必要な機能や体制を包括的に支援できる点にあり、「どこに落とし穴があるか」といった具体論まで踏み込んで伴走します。

また、当社には多様な専門人材が在籍しています。上平のようなデータサイエンティストや高田のようなデータエンジニアに加え、デザイナー、ITスペシャリスト、開発エンジニアなど、AXに必要な人材を擁しています。さらに、CoEのキーとなるFDE、DSについても、クライアント先に常駐できる体制を整えています。このように多様な人材と実践知を組み合わせ、構想策定から実装・運用定着まで一貫して支援します。


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デロイト トーマツ Emerging Technologyの取り組み


しもかわ・けんいち◎デロイト トーマツ パートナー。経営と技術の融合をテーマとして、幅広い業種、業界に対して15年以上の支援を行っている。中期経営戦略、事業戦略、新規事業開発などの戦略立案プロジェクトとAIを含めたDigital Toolを活用した業務改革、組織構造変革のプロジェクトを数多く手がけている。また、戦略・計画立案だけでなく、実行サポートの経験も豊富。

うわだいら・やすひろ◎デロイト トーマツ ディレクター。国立研究機関および大手総合コンサルティングファームを経て現職。AI・データサイエンス領域における構想策定・業務高度化、CoE支援・人材育成に強みをもつ。

たかた・ひろたけ◎デロイト トーマツ ディレクター。ITベンチャー、及び大手米国系ITベンダー会社のテクノロジーコンサルタントを経て現職。AIデータ・システムアーキテクトの構想から実装まで、多数のプロジェクトをリード。

promoted by デロイト トーマツ / text by Fumihiko Ohashi / photographs by Shuji Goto / edited by Akio Takashiro

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