ブライアン・クルーグは、いうなれば紳士的な高利貸だ。キャッシュを切実に必要としているビジネスを相手に貸し付けるからだ。
イーロン・マスクのクレジットスコアはどのくらいだろうか。きっと高いはずはない。手元資金が足りず、ツイッター(現 X)の買収時に借り入れを重ねたからだ。マスクが支払っている変動金利は10.4%。彼はこの太陽系最大の富豪だが、現在Xは融資の返済に大金を費やしている。この矛盾を理解することが、卓越した信用力評価の腕をもつブライアン・クルーグの仕事だ。
クルーグは、アーティサン・パートナーズ・ハイ・インカム・ファンドを運用する。その構成は、いささか怪しげな企業133社のジャンク債やシンジケートローン(協調融資)の詰め合わせだ。ファンドの特徴は、実際より質が悪く見える投資商品を購入すること。そこにはXの負債も含まれている。
従来の評価手法では、支払利息に対する営業利益の比率が低い企業の負債は質が悪いと見なされる。資産に対する負債の比率が高い場合も同様だ。では、非公開企業であるXのこれらの数字はどうなっているのか。クルーグは、マスク本人が組織した、同社の財務状況に関する招待制の極秘説明会に出席したという。それはマスクが高いクーポン(利率)を提供せざるをえない水準だったが、クルーグは同社への投資を取りやめなかった。
従来の手法の流れに従うということは、従来通りのリターンしか得られないということだ。クルーグはそれ以上の成果を目指す。そのためのアプローチとして、事業の見通しに目を向け、その点でXを高く買っている。自らも熱心なユーザーで、世の中のニュース収集活動の流れがXに向かいつつあると感じているからだ。
アーティサンのファンドは設立以来、機関投資家向けでは平均6.5%の年間リターンを達成しており、これはインデックスを1.5ポイント上回る。クルーグは、企業の信用力に対してほかのファンドマネジャーよりやや優れた判断を何度も繰り返すことで、コツコツと歩を進めてきた。
彼は向こう見ずで言動の派手なXの経営者とは対照的だ。おとなしく口調も穏やかで、自身が投資を拒んだ負け組企業に対する批判めいた言葉は一切口にしない。ただし、勝ち組企業は存分に褒める。
クルーグは、クルーズ客船ビジネスに好意的だ。6年前、この業界は新型コロナウイルスによって壊滅的な打撃を受けた。運航会社大手のカーニバル・コーポレーションも、空っぽの客船を維持するために毎月8億ドルもの損失を計上していた。そこへクルーグのファンドが救済資金を提供すべく介入し、なかなかのクーポンを獲得した。現在もより低い利率で貸し付けを続けているが、カーニバルの業績がこれ以上好調になるようであれば、その債券はジャンク債ではなくなる。
一方で、データセンター開発企業がウォール街に1000億ドルの資金提供を頼み込んできても、自分が応じる可能性は低いという。ただ、関連部品メーカーの見通しは明るいと見ている。自身のファンドでは、メモリを製造するキオクシアの債券を保有。クルーグはXの投稿で同社を知ったという。
クルーグは昨年、自動車部品メーカーで同年9月に経営破たんしたファースト・ブランズの変動金利負債への投資を検討したと振り返る。2桁台の魅力的な利回りが提供されていたが、投資は見送った。「11%の利回りは素晴らしいですが、投資元本の99%を失うのなら話は別です」と彼は言う。Xもそのような運命をたどる可能性はある。だが、危険を冒さなければ何も得られないというものだ。
ブライアン・クルーグ◎アーティサン・パートナーズ・ハイ・インカム・ファンドの運用者。マイアミ大学で金融学の学位を取得。ワデル・アンド・リード・ファイナンシャルなどを経て現職。150億ドル以上の運用を取り仕切っている。



