北米

2026.06.05 16:15

「100グラム1万円」━━NY和牛事情。米国産Wagyuや「全米和牛組合」も

写真=著者提供

「Kaizen(改善)」か「Transform(変形)」か?

さて、ビジネスはさておき、和牛人気の現況を見るにつけ考えさせられるのは、米国においての日本へのまなざしとその変遷についてである。

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ちょうど1年前、同じニューヨーク・タイムズ日曜版のライフスタイル雑誌「T」が大々的な特集を組んで、現在の日本のカルチャーについて多方面から取り上げていた。詳しい記事の内容は別の機会にするが、そこで注目されたのが、海外から輸入したもののクォリティを高めることに日本が長けている点だった。

長らく奈良に暮らす、国際的に著名な紀行作家ピコ・アイヤーは、同特集に寄稿した文章で、英国の外交官・学者のW・G・アストン氏による次の言葉を引用している。

「日本人は、単なる借用に決して満足しない。他者から取り入れるいかなるものに対しても、広範囲にわたって改良を施し、ナショナル・ブランドとしての刻印を与える傾向の人たちである」

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お家芸とも呼べる日本の改良技術への米国の評価は、時代とともに変化した。

80年代後期から90年代にかけて、バブル経済さなかの日本が米国のメディアで紹介されるとき、「Kaizen(改善)」という言葉をよく見かけた。どことなく工場での製造工程を連想させ、経済面で勢いがあった当時の状況と日本人の特性を示す言葉である。

それが、昨年出た「T」マガジンでは「Transform(変形)」が現在の日本への印象を言い当てる表現のように思えた。村上春樹氏は昨年12月のニューヨークでの講演で、「失われた30年」とされる日本の経済と異なり、日本の文化は過去30年間で米国の認知度を高めたと語ったが、改良の匠の技術にも支えられ日本の文化は、ある意味上り坂を歩むように映る。

文学、アート、映画、ファッション、アニメと国外で高級、洗練と羨望の的となる日本文化のなかには和牛を含む“食”も組み込まれる。日本から逆輸入されたステーキに代表される肉料理も然りだ。「和牛」の名のもとで、牛の飼育方法から調理まで極上の品質に近づく技術を駆使し、高級牛肉のブランド・イメージを築き上げた。

「何でも日本がベスト」と吹聴するのにはためらいを感じる。だが、和牛に代表されるように、日本産の品質に対する米国での一般的な評価が高いことは間違いない。独特の審美眼と高度な技術によるソフト・パワーを用いて、日本が今後、米国を含め海外においてどれほど存在感を示していくか、わたし自身も大いに期待を寄せている。


文=新元良一 編集=石井節子

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