株式市場のバブルを心配する声は少なくない。ただ、シートベルトを締めた状態で、強気相場の波に乗れるように設計された上場投資信託(ETF)も存在する。
金融危機直後の2009年にS&P500に10万ドルを投資していたら、その価値は今日、100万ドルを超えていただろう。しかし、強気相場の勢いが続くなか、暴落を懸念する声も多い。
イリノイ州ウィートンに本社を置くイノベーター・キャピタル・マネジメントのブルース・ボンドとジョン・サザードは、猫並みに警戒心の強い投資家たちのための処方箋を用意している。運用資産280億ドルの同社の専門は、バブル対策済みのETFだ。投資アドバイザーの間では、アウトカムの範囲を事前にある程度定める「バッファーETF」として知られる。
この種のファンドは、オプション契約を活用して値下がり時の損失リスクをヘッジするが、同時に値上がり時の利益にも制限を設ける。それでも、安心料と考えれば投資する価値はあるかもしれない。イノベーターで最も人気があるのは、「米国株式パワー・バッファーETF」のシリーズだ。1年の間に発生するS&P500の最初の15%の下落による損失から投資家を守るバッファーを提供するが、一方で上昇した場合のリターンも、現時点では最大13%までに設定されている。
同社の運用資産は、18年に最初のファンドを立ち上げて以降、爆発的に増えている。運用成績が連動するインデックスを下回り、運用経費もヴァンガードやブラックロックのS&P500連動ETFに比べて26倍も高いにもかかわらずだ。
イノベーターのCEOを務めるボンド(62)は、「ボウリングに例えると、ボールが貯蓄だったら、念のためそのボールを守るバンパーを設置しておきたいですよね?」と主張する。「しかも、ピンは3、4本しか倒せないかもしれませんが、少なくとも何本かは確実に倒せるとしたら? そのほうが、ボールをガターに落とす可能性があるよりいいはずです」。
「こうした商品は、退職した人、あるいは退職が近い人向けに設定されています。彼らは資産を倍にする必要はありません。それより、手持ちの資産を守り、その資産だけで生活していける必要があります」と、社長を務めるサザード(56)は言う。「率直に言って、市場が最高値圏で推移している現在は、このような商品を購入するのに、つまり下落対策を取り入れるのに適したタイミングのひとつです」
イノベーターの成功を受け、ファースト・トラストやアリアンツなども数々の模倣商品を投入しており、バッファー業界は今や750億ドルの資産を運用している。よりいっそう悲観的な投資家向けに、イノベーターは最新シリーズのファンドを立ち上げた。「デュアル・ディレクショナル(双方向型)ETF」と呼ばれる商品で、追加のオプション契約を用いることで市場が下落しても投資家にプラスのリターンをもたらす仕組みである。
昨年7月に発売された「エクイティ・デュアル・ディレクショナル15バッファーETF(DDFL)」の場合、S&P500が15%まで下落しても、投資家は15%のリターンを享受できる。ただし、株価が上昇した場合の利益には8.8%の上限がある。
ゴールドマン・サックス・グループは25年12月、イノベーターを20億ドルで買収すると発表した。投資家が夜も安心して眠れる商品を売るビジネスでは、ボンドやサザードのような真のイノベーターが常に最大の利益を得るという証だ。
ブルース・ボンド、ジョン・サザード◎ふたりは2002年にパワーシェアズ・キャピタル・マネジメントを創業。現インベスコへの売却を経て17年にイノベーター・キャピタル・マネジメントを買収しボンドがCEO、サザードが社長に就任した。



