市場のタイムラグを武器に
──上場株と未上場株ではバリュエーションの物差しも違う。適正株価をどう見極めるのか。
藤野:上場株と未上場株は市場の参加者が異なるため、同じ会社でも評価がずれる。いわば一物二価の状態が常に生じている。我々の強みは、毎日上場株を見ていることだ。VCと上場株の投資家では日常的に見ている市場が異なるため、上場市場のトレンドが未上場側に反映されるまでに半年から1年のラグがある。我々にはそのラグがない。例えばSaaS株が上場市場で下落局面に入れば、未上場のSaaS企業への投資にも即座にブレーキをかけられる。逆に未上場株が割安になっている局面では積極的に仕入れる。この即応性がクロスオーバー投資家としての武器だ。
松本:我々のような運用会社は、IPO前のロードショーで上場予定企業の説明を受け、想定される株価や事業への評価を主幹事証券会社にフィードバックする役割を担っている。どの水準での上場が適切かを日常的に判断しているからこそ、未上場株に対しても自前の物差しをもっている。一方で、たとえ毎年数十%成長する未上場企業があっても、まだ誰にも注目されていない割安の上場企業のほうがいいリターンを見込めると判断すれば、迷わずそちらを選ぶ。未上場だから買うということはない。常に上場株との比較のなかで判断している。
──上場までたどり着かないリスクもある。時間軸をどう設計しているのか。
松本:上場時期が会社の計画通りに進まないリスクは織り込んだうえで投資する。上場時点の株価以上に重視しているのは、そこから2年、3年後の姿だ。会社が資本市場でどう評価され、どう成長していくか。そこから逆算して、今の段階で何ができていなければならないかを考えている。
藤野:我々は上場株市場のリアルタイムの動きを把握しているから、業界は違っても似たビジネスモデルの上場企業がどう評価されているか、今マーケットで何が起きているかといった情報を投資先に共有できる。上場株と未上場株の両方を見ている我々だからこそ提供できる視座があり、投資先に感謝されることも多い。
──今後の方針と注目領域は。
藤野:AIだ。スタートアップの世界への影響は爆発的で、AIが業務を代替することで人間の雇用自体が構造的に縮小する時代が近づいている。そこでどのような会社が伸びるのかは、これまでとはまったく異なる次元の問いだ。固定的な方針を掲げるのではなく、日々変わる世界にダイナミックに対応する。知識を蓄える速度ではAIに勝てない以上、人間の強みは既存の前提を捨てて学び直す「アンラーン」の早さにある。「いちばん忘れられる人間」がいちばん強い。そういう時代に入ったと思う。
松本:特定のセクターにはこだわらない。上場株では得られないリスク・リターンを取れる投資機会を大事にしたい。今のマーケットでは、オープンAIやアンソロピックといったAIの基盤技術を握る巨大プレイヤーが未来の方向性を決めている。その波に乗るか、追い越そうとするか。そこに挑める力強い起業家が、この国から出てくることを期待している。
ふじの・ひでと◎野村アセットマネジメント、JP モルガン・アセット・マネジメント、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て2003年レオス・キャピタルワークス創業。ファンドマネージャーとして豊富なキャリアをもつ。(写真右)
まつもと・りょうが◎2022年、東京大学経済学部経済学科卒業後、新卒でレオス・キャピタルワークスに入社。小型株式戦略部ファンドマネージャーとして、24年9月から「ひふみクロスオーバーpro」の運用を担当する。(同左)


