多様な学びをいかに維持するか
「透明な最前列」のような類似の視聴体験は、音声SNS以外にもコロナ禍の緊急事態宣言下で導入されたオンライン授業においてもみられました 。
2020年の緊急事態宣言のとき、どの学校の先生もオンライン授業に不慣れであったことから、先生自身がオンライン授業を体験するタイプの教員研修のリクエストを多くいただきました。実際に研修の中で先生から出てくる相談で一番多かったものが、子どもたちがカメラをオンにしてくれない、というものでした。教室での授業が仕方なくオンライン授業にとってかわられたと感じる先生にとっては、授業をする以上はカメラもマイクもオンの状態で授業を受けさせたい、受けなければ真面目な授業態度には見えないと判断していたのかもしれません。
しかし、このカメラやマイクをオフにしたりすること、さらには画面やスピーカーをオフにしたりすることは、子どもたちにとって大きな意味を持つ場合があったのです。それは、例えば感覚過敏の生徒にとっては、画面の映像をオフにすることで先生の話だけに集中したり、声が大きすぎると感じれば音量を下げたりミュートにしたりして板書だけをノートに写したりするなど、学習環境をPCやタブレット上に自由にカスタマイズすることができたのです。
実は感覚過敏をもつ子どもにとっては、ふだんの教室で受ける授業は、視覚刺激も聴覚刺激も集中を妨げるほどに多すぎたということもあり、ふだんの授業中にもうつむいたままの姿勢でいたり、苦しそうに目をつむったりすることもあったそうです。しかし、それらは授業をしている先生にとっては授業態度として不適切だということも子ども自身で自覚していたそうです。それがオンライン授業では、自分の手元でそれがコントロールできるというとても快適な学習環境に変わります。このことは、教室に入るのに心理的プレッシャーに苦しんでいた不登校児童生徒にも言えることで、カメラやマイクをオフにすることで、「透明な最前列」として教室の中にいることが可能になったのです。


