オランダ船籍の極地探検船「MV ホンディウス」は米国時間5月7日、スペイン領カナリア諸島に向けて航行している。船内での集団発生により、これまでにハンタウイルス感染が確定または疑いのある症例が7件、死者が3人出ている。さらに、すでに下船していた乗客について、スイスで8例目が確認された。
ウイルスはアンデス型と特定された。これは、ヒトからヒトへの感染が確認されている唯一のハンタウイルスだ。WHO(世界保健機関)は、23カ国からの乗客・乗員147人が乗船する同船について「Disease Outbreak News(疾病発生情報)」を発出している。
新型コロナウイルスのパンデミックから6年以上が経ち、多くの人が「これが次のCOVID(新型コロナウイルス感染症)なのか」と問い始めている。
私は感染症アウトブレイクの動態を研究しているが、結論から言えば「違う」。このウイルスの生物学的特性から、大規模な拡散が起きる可能性はきわめて低い。
クルーズ船2隻、ウイルス2種類
クルーズ船は、人々を数週間にわたり限られた空間に密集させる。疾病の伝播にとって、実験室の外でこれ以上に好都合な環境はそうない。
直接比較できる例がある。2020年初頭、新型コロナは大型客船「ダイヤモンド・プリンセス」(乗客・乗員約3700人)で猛威を振るった。1カ月以内に634人が陽性となり、アタックレート(罹患率)は17%だった。数理モデル研究では、初期の対策が十分でなかった段階で基本再生産数が最大11に達したと推計されている。別の分析では、公衆衛生上の対策を講じなかった場合、船内の79%が感染した可能性が示された。
一方、MV ホンディウスの乗客・乗員は147人だ。最初の症状は4月6日に現れた。そこから5週間後、症例は8件。より小さな船で、より長い期間が経過しているにもかかわらず、罹患率は約5%にとどまる。比較は完全ではない。船の規模、乗客層、換気などが異なるからだ。それでも、拡散の差はあまりに大きく、見過ごしがたい。SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)がそうでなかったのとは異なり、このウイルスには伝播を制限する要因がある。
拡散を制限する要因
アンデス型ハンタウイルスの拡散を制限している要因は3つある。
1つ目は、感染性を持つタイミングだ。COVIDの決定的特徴は、発症前感染だった。二次感染の推定44%は、最初の感染者が症状を示す前に起きていた。人々は外出を控える理由がない段階から、通常の呼吸や会話でウイルスを放出していた。
アンデスウイルスでは様相が異なる。患者は症状が出る数日前からウイルス血症(viremia)を起こす。しかし、症状が出る前に唾液や呼吸器分泌物にウイルスが到達するかは未解決の問題だ。最大規模の前向き研究は入院時点で患者を組み入れており、発症前の体液は採取されていない。ここで頼りになるのは疫学的記録だが、そこから一貫して示されるのは、前駆期(軽度の発熱や筋肉痛など)の間に、近接かつ持続的な接触を通じて感染が起きるという点である。チリで行われた家庭内接触者の最良の前向き研究では、感染患者の配偶者やパートナーの感染リスクは17.6%だった。その他の同居者は1.2%にとどまる。このパターンは、日常的な接触で静かに広がるウイルス像とは合致しない。



