「フォーブス400」は、400人の米国富豪を掲載する長者番付だ。1982年発表の第1回には、ジャック、ジョセフ、モートンのマンデル3兄弟が名を連ねている。
彼らが設立した慈善団体「ジャック・ジョセフ・アンド・モートン・マンデル財団」は、ロボット工学の倫理などを含む学際的研究の支援を目的に、ケース・ウェスタン・リザーブ大学に1億2500万ドル(約196億2500万円。1ドル=157円換算)を寄付すると発表した。
人文学退潮の流れに逆行する、マンデル財団の196億円寄付
過去20年にわたり、多くの大学で人文学と社会科学の存在感は薄れてきた。多額の学生ローンを抱える学生らは、より高い収入が見込めるSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の職業を目指すようになった。州議会や私立大学の理事会も、学生数が少なく、卒業後の収入面でも不利と見なされる専攻の廃止を進めてきた。最近の連邦政府による研究資金削減は、こうした流れを加速させている。
一方で、大学側は人工知能(AI)関連の教育プログラムの拡充に躍起になっている。マーク・ザッカーバーグのようなビリオネア寄付者も、自身の母校をAI競争で後れを取らせまいと、多額の資金を投じている。
AI研究に多額の資金を投じるビリオネア寄付者
・2026年、モーニングスター創業者のジョー・マンスエトは、AIに関する専門知識を持つ教員を幅広い分野で採用・支援するため、シカゴ大学に5000万ドル(約78億5000万円)を寄付した
・2026年、ブルームバーグ共同創業者のトーマス・セクンダは、米国の公立大学として初の独立系AI研究センターを設立するため、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校に3000万ドル(約47億1000万円)を寄付した
・2021年、メタ共同創業者のマーク・ザッカーバーグと妻プリシラ・チャンは、AI研究所の設立に向け、ハーバード大学に5億ドル(約785億円)の寄付を約束した
人文学に多額の資金を投じるビリオネア寄付者
・2024年、ユニクロ創業者の柳井正は、日本人文学の国際化を目指す「柳井イニシアチブ」を支援するため、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の人文学部門に3100万ドル(約48億6700万円)を寄付した
・2024年、KKR共同CEOのジョセフ・ベイと妻のジャニス・リーは、芸術・人文学部門のディーン職を恒久的に支援し、学費援助にも充てるため、ハーバード大学に2000万ドル(約31億4000万円)を寄付した
・2019年、ブラックストーン共同創業者のスティーブン・シュワルツマンは、AI倫理研究所を含む人文学研究拠点「シュワルツマン人文学センター」を設立するため、オックスフォード大学に1億5000万ポンド(約321億円。1ポンド=214円換算)を寄付した
だが、こうした流れに変化の兆しが見えている。雇用市場が大きく変わる中、ジャック・ジョセフ・アンド・モートン・マンデル財団はケース・ウェスタン・リザーブ大学に過去最高額となる1億2500万ドル(約196億2500万円)を寄付すると4月30日に発表した。この動きは、人文学や社会科学、STEMと人文学を組み合わせた複合的な学びに再び光が当たりつつある可能性をうかがわせる。
AI時代に人文学の重要性が高まるとの指摘
ケース・ウェスタンの文理学部長で、著名な物理学教授でもあるデビッド・ガーデスはフォーブスに対し、AIの進歩によって「技術分野の従来型のSTEM学位だけでは、10年前に考えられていたほど職業上の優位性を保ちにくくなっている」と語った。
ガーデスは、AIが従来なら新人社員が担っていた仕事の多くを自動化する中で、人文学の重要性はむしろ高まっていると主張する。企業は今、高度なコミュニケーション能力や共感力、批判的思考力、粘り強さといったスキルを求めているからだ。ガーデスは、そうした力こそが「人間と機械を分け、AIモデルの答えをコピー&ペーストするだけの働き手と、本当の意味で革新を生み出し、リーダーとなる人材を分けるものだ」と述べている。



