教育

2026.05.12 16:00

米財団が大学に単独寄付として財団史上最大の196億円、AI時代に人文学の重要性が増すか

ケース・ウェスタン・リザーブ大学(Douglas - stock.adobe.com)

寄付の大半が人文学プログラムを支える

オハイオ州クリーブランドのケース・ウェスタンは4月上旬、雇用主から高く評価される私立大学10校と公立大学10校をフォーブスが選出する「ニュー・アイビー」リストの2026年版に選ばれた。以前からSTEM分野に強い大学として知られるケース・ウェスタンは、とりわけ工学、生体医工学、医学のプログラムに定評がある。同校は、他のニュー・アイビー校と同じように、AI分野への取り組みを加速している。AI関連科目を3倍に増やしたケース・ウェスタンは現在、40学部・学科で100以上の科目を提供している。また、2026年から工学部の学生向けにAIを副専攻として学べるプログラムも始めており、AIを主専攻とするプログラムの承認手続きも進めている。

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しかし、ケース・ウェスタンによれば、オハイオ州の高等教育機関に対する寄付として過去最高額となる今回の1億2500万ドル(約196億2500万円)の寄付の大半は、同校の人文学プログラムに充てられる。使途には、約4650平方メートルの新たな人文学棟の建設、人文学とSTEMの専攻を同時に履修する「ヒューマニティ・アンド・テクノロジー」専攻の支援、3年前に試験的に始まった「実験的人文学マンデル・フェローシップ」の支援が含まれる。

マンデル・フェローの1人は、AIロボット工学の倫理を探究するため、機械・航空宇宙工学と哲学を専攻している。別のフェローは神経科学とダンスを学び、その知見を、運動機能に損傷を受けた人を支援する神経義肢の開発に生かそうとしている。寄付の残りの多くは、奨学金やソーシャルワークを学ぶ学生への支援に充てられる。

「一部の大学が人文学部門を閉鎖する中でも、本学はSTEMに強みを持つ大学でありながら、人文学にあえて力を入れている」と、ケース・ウェスタンの学務担当責任者兼上級副学長で、生物学教授でもあるジョイ・ウォードは語る。

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人文学学士号が30%減った後に動き始めた潮目

実際、米国で授与された人文学の学士号は、2012年から2024年にかけて30%減少した。歴史学、英文学、外国語、宗教学といった伝統的な分野では、減少幅は50%近くに達している。連邦政府のデータが得られる最新年の2024年時点で、人文学は授与されたすべての学士号の8.4%にとどまった。これは記録が始まった1987年以降で最も低い割合だ。

米国芸術科学アカデミーで人文学部門のディレクターを務めるロバート・タウンゼントは、学生が職業に直結しやすい専攻へ移る流れは、世界金融危機の後に始まったと指摘する。当時は、多額の学生ローンを抱えた人文学専攻の卒業生がバリスタとして働く姿が、この分野の苦境を象徴するお決まりのイメージとなっていた。ただ、同アカデミーは、2021年から2023年にかけて人文学の学士号授与数が13%減少し、特に大きく落ち込んだ点にも注目している。この時期は、OpenAIが2022年末にChatGPTを一般公開した時期と重なる。

だが今や、AnthropicなどAIモデルの高度化によって、プログラマーを含む新人社員が担ってきた定型業務の需要が縮小しつつある。これまで語られてきた構図にも、変化が生じつつあるのかもしれない。

全米人文学連盟で教育支援部門のディレクターを務めるスコット・ミュアは、「流れは変わりつつある」と語る。ミュアが人文学の立場を代弁する人物であることは確かだが、その指摘には説得力がある。「2008年以降は、職を得るには技術訓練が必要だという考え方が広がった。だが今は、特定の技術に偏った教育は短期間で時代遅れになるかもしれず、大きく変化する雇用市場に適応するには、むしろ土台となる幅広い教育が必要だという認識に変わりつつある」と彼は述べている。

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翻訳=上田裕資

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