現代の日本経済において、M&Aは円滑な事業承継や企業の持続的成長を実現するための欠かせない選択肢となっている。M&A仲介はこうした極めて重要な局面を扱う以上、揺るぎないコンプライアンス体制がより一層求められる。
そうしたなか、最先端のコンプライアンス体制を構築しているのが、DX・AIを武器に急成長するM&A総合研究所だ。その象徴的な取り組みとして、元警察庁長官の金髙雅仁を顧問に迎えた。その経緯と狙いについて、M&A総合研究所代表取締役会長の佐上峻作と顧問の金髙雅仁に話を聞いた。
妥協なきコンプライアンス体制の追求
──顧問就任の経緯についてお聞かせください。
佐上峻作(以下、佐上):当社は上場企業としてふさわしい最先端のコンプライアンス体制を構築し、業界をリードしていく責任があると考えています。M&A仲介は、オーナー様の人生を左右する極めて重要な意思決定に寄り添う仕事です。その大きな決断を支える強固な土台として、コンプライアンスを経営の最優先事項の一つに据えています。常に体制をアップデートし続け、業界で最も信頼される企業でありたいと考えています。
そのために、長年さまざまなコンプライアンスにかかわるテーマに関わってこられた金髙さんに内部から指導していただければ、より良い体制を構築できると判断したのです。
金髙雅仁(以下、金髙):佐上会長と最初にお会いしたときに、先見の明と熱意を感じました。M&A業界は、日本の経済にとって非常に重要な役割を果たしています。M&A総合研究所は新しい会社ですが、M&A仲介のリーディングカンパニーになりつつあり、業界の健全な発展と会社の成長のために自分の経験を生かせるのではないかと思い、お受けしました。
──どのような経験をされてきたのでしょうか。
金髙:私は警察庁で約40年間勤務し、おもに刑事事件と管理部門を担当してきました。前者では企業犯罪、経済犯罪、政治的不正、汚職などのホワイトカラー犯罪に数多く携わってきました。なかでも強く印象に残っているのは、世間を騒がせた厚生省(現・厚生労働省)事務次官の贈収賄事件です。特別養護老人ホームをつくろうとしている社会福祉法人から事務次官が6,000万円の賄賂を受け取り、補助金交付の便宜を図ったとされる、1996年の事案です。
問題は、最初から大きな不正があったわけではないことです。現場レベルのコンプライアンス違反から始まり、接待、高級料亭での会食、ゴルフ、海外旅行と徐々にエスカレートし、最終的には現金の授受にまで発展してしまいました。この事件から得た教訓は、小さな段階で止める努力がないと取り返しがつかないところまでエスカレートしてしまうということです。だからこそ、最初の小さな問題が起こらない仕組みをつくることが大事です。それでも悪事を働かせる人はいるので、それをいち早く把握し、厳しい措置で是正する仕組みがどの組織にとっても不可欠だと考えています。
──帝国データバンクによると、2024年度のコンプライアンス違反倒産は379件で過去最多を記録しています。なかでも「粉飾」倒産が過去最多の101件でした。これだけコンプライアンスの重要性が叫ばれるなか、違反が絶えないのはなぜでしょうか。
金髙:トップの意識が大きな原因のひとつだと思います。企業は業績評価によって市場から判断され、生き残れるかどうかが左右されます。そのため売上高や利益といった数字を強く意識するのは当然のことです。しかし、その方向に傾きすぎると、組織は徐々にゆがみ始めます。目先の評価を優先し、売上を水増ししたり、損失を先送りしたりして指標を操作する。最初は小さな調整のつもりがやがて常態化し、取り返しのつかない状態に陥ります。トップがそのリスクを見通せず、「これくらいなら大丈夫」と甘く見積もってしまうことが、根底にあるのではないでしょうか。
M&A総研独自のコンプライアンス体制と人材面を含めた投資
佐上:当社では独自の厳格なコンプライアンス体制を構築するために億単位での規模の投資を行って体制強化を進めており、人材面においても5名の社内弁護士が在籍しています。短期的な利益を追求することよりも、中長期にわたって筋肉質な経営基盤をつくることこそが、企業として必要なことだと考えていたためです。
経営において大切なのは、何が本質的に重要なのかを見極め、それを愚直に積み重ねていくことです。これからの経営には、そうした価値観がますます重要になるのではないかと考えています。
金髙:警察組織内でも、たびたびコンプライアンス違反は起きていました。その原因のひとつは、職務質問や検挙の「件数」を重視し過ぎてきたからだと考えました。その件数によって、署や個人が評価されれば必然的にそうなります。そこで私は単なる件数ではなく、「何を行ったのか」「地域の実情に合っているのか」といった中身を重視する仕組みに変えました。それによって件数は一時的に落ちましたが、プロセスを正しく評価すれば、結果は後からついてきます。これは、佐上会長が進めておられる施策にも通じる部分があると思っています。
単に成果や数字を見るのではなく、コンプライアンスを含めた取り組みのプロセスそのものを評価対象とすることも重要です。その観点では、M&A総合研究所で導入されている、コンプライアンスを遵守しなければ個人のインセンティブ報酬が減額される仕組みも非常に有効であると考えています。
──金髙さんからはどのようなアドバイスを頂いているのでしょうか
佐上:通常の事業活動では、悪意をもった相手に出会う機会は多くありません。しかし金髙さんは、数々の事件を担当されてきた経験があります。そうした知見をもとに、問題のある企業の事例や、そうした企業の考えをあらかじめ理解したうえで対策する方法について、当社では具体的なアドバイスをいただいています。
金髙:市場が急速に拡大していることもあり、さまざまな企業が参入してきているので、残念ながらなかには、問題のある譲受企業も存在します。不誠実な対応をしたり、契約内容を履行しなかったりして大きなトラブルに発展したケースをこれまで何度か耳にしました。
──自社独自のルールも設定されているのですね。
佐上:当社では中小企業庁のガイドラインやM&A支援機関の自主規制ルールを遵守しながら、それに加えてより厳格な独自のルールを設けています。複数の調査会社を利用しているほか、独自に設定したチェック項目を用意し、少しでも疑義が生じた場合には取引を停止しています。
金髙:非常に先進的な取り組みです。M&Aへの信頼が失われてしまえば、事業承継が成り立たなくなり、日本経済に大きな影響を及ぼしかねません。だからこそ、市場の健全性を守っていくことは極めて重要です。もちろん、そのためには大きな労力をともないますが、市場に入ってくるべきでない企業を入れない努力は不可欠です。M&A総合研究所は、それを自ら実践しています。
佐上:受け身ではなく、発生し得る問題を先回りして想定し、そのリスクを徹底的に封じていく。いわば「攻めのガバナンス」であり、これこそが、私たちにできる最大の企業努力だと考えています。
M&Aは社会のインフラである
──事業承継の支援が日本にとってどれほど重要なのでしょうか。
佐上:私たちはM&Aを単なる企業の売買ではなく、「社会インフラ」のひとつと考えています。とくに地方においては、企業を存続させることが地域社会を支えることにつながります。たとえ10人に満たないような規模の事業者であっても、倒産や廃業となれば、企業がなくなるだけでなく、従業員やその家族の生活にも影響が及びます。都市部のように再就職先が豊富にあるわけではないため、1社の消滅が地域社会に与えるダメージは決して小さくありません。M&Aは地域の雇用や生活基盤を支える重要な役割を担っており、日本経済の発展に貢献するための取り組みだと捉えています。このような極めて重要な社会的責任を全うするために、当社ではコンプライアンス体制を強化する取り組みを徹底しているのです。
金髙:最終的には、こうした個社の取り組みが業界全体で広がっていけば、業界がより良くなっていくと考えています。
佐上:おっしゃる通りで、重要なのは、自社だけで完結させるのではなく、これまで培ってきた知見や取り組みを業界全体へ広げていくことだと考えています。私たちの目的は単なる利益追求ではなく、日本の産業基盤を支え、中小企業を守ることにあります。その理念を業界全体に波及させていかなければ、本当の意味での価値は生まれない。そうした強い思いでこれからも取り組んでまいります。
M&A総合研究所
https://masouken.com/
かねたか・まさひと◎M&A総合研究所顧問。1978年警察庁入庁。イタリア大使館一等書記官や警視庁刑事部長、警察庁刑事局長などを経て2015年から16年まで警察庁長官。同年の伊勢志摩サミットの警備を完遂したほか、6代目山口組分裂・抗争の封じ込めや工藤会壊滅作戦を指揮。警察庁や警視庁など、警察組織のコンプライアンス維持にも取り組んできた。日本国際警察協会会長。
さがみ・しゅんさく◎M&A総合研究所代表取締役会長。神戸大学農学部卒業後、マイクロアド入社。広告システムのアルゴリズム開発等に従事したのち、2016年に1社目であるメディコマを創業。約1年でベクトルへ株式譲渡。18年に2社目であるM&A総合研究所を創業し、22年6月、創業から3年9カ月で株式上場を果たす。



