米スタートアップSuno(スーノ)は、人工知能(AI)を使った音楽生成アプリで、世界の数百万人の楽曲制作の仕方を根本から変えつつある。同時に、レコード会社や怒れるアーティストとの対立も抱えている。だが今、その批判者の一部がSunoに歩み寄り始めている。
1億人超が使ってきた音楽生成AI「Suno」
2月の凍えるような夜、マサチューセッツ州ケンブリッジで、マイキー・シュルマン(39)は新たな曲作りを始めていた。しかし、彼のエレキベースは壁に掛かったままだ。数部屋先には61鍵のシンセサイザーとドラムセットも置かれているが、いずれも手つかずのままである。シュルマンが楽器の代わりに使うのは、自らのスタートアップであるSunoのAI音楽生成ソフトだ。彼が打ち込むのは「ペダルスチールギター」「カントリー・アメリカーナ・フォーク」「アコースティックギター」といった短いフレーズである。
その数秒後、新たな楽曲が生まれた。流れるようなギターのストロークと、人間が歌っているように聞こえる滑らかな南部なまりのボーカルが、軽快なテンポに乗って伸びていく。エラ・ラングレーとラナ・デル・レイを掛け合わせたようなキャッチーな曲だった。
その曲はチャートを制する大ヒットでも、夏を象徴するヒット曲でもないが、これまでに1億人超がSunoを使って音楽を作ってきた理由を示すには十分なクオリティだった。Sunoで作られた楽曲はTikTokで拡散し、ビルボードのチャートに初登場し、数百万回のストリーミング再生回数を達成した。このアプリでは、毎日700万曲以上が作られている。Sunoのアプリは4月、アップルApp Storeの音楽アプリにおいて、ダウンロードランキングでSpotifyを抜いて首位に立った。
「このテクノロジーによって、数十億人が創造性を発揮し、自分の創作の成果を手にし、これまでとは違う形で充足感を得られるようになる」と、CEOであるシュルマンは語る。彼はこれを「消費者向けエンターテインメントの新しい形」と呼んでいる。
レコード会社大手4社がSunoを著作権侵害で提訴
しかし、その代償を払っているのはプロの音楽家だ。Sunoは初期の段階で、インターネット上から収集した著作権で保護された楽曲数千万曲を使ってAIモデルを訓練したと説明し、激しい反発を招いた。2024年には、ケイティ・ペリー、ビリー・アイリッシュ、ニッキー・ミナージュなど約200人のアーティストが、AI企業がアーティストの作品を無断でモデルの訓練に使っていると批判した。
2024年7月には、ユニバーサル・ミュージック・グループ、ソニー・ミュージック、ワーナー・ミュージック・グループ、全米レコード協会(RIAA)がSunoを相手取り、大規模な訴訟を起こした。各社は、Sunoが権利者の許可を得ず、補償も行わないまま、AIモデルの訓練のためにYouTubeから数百万件の著作権で保護された録音物を違法にダウンロードしたと主張している。ある業界幹部はフォーブスに対し、「あれは著作権の解体工場だ」と語った。
Sunoはこれら主張を否定しており、訴訟は現在も続いている。「我々がしていることは違法ではない。たくさんの音楽を聴き、そこから学ぶのと同じだ」とシュルマンは語る。むしろ、Sunoは音楽制作の機会をより公平にしているだけだと彼は主張する。音楽の世界には不公平な偏りがあるというのが、シュルマンの主張だ。
これまで音楽制作は、ごく一部の才能ある人々に限られてきた。大半の人は、音楽を聴いたり、コンサートで一緒に歌ったりするだけの消費者だった。だが、自身のドラムやギターの腕前が平均レベルだと認めるシュルマンは、技術的なスキルが足りないからといって、ミュージシャンを目指す道が閉ざされるべきではないと話す。現在ではAIがそれを可能にした。
Sunoの売上高、3倍の年換算471億円に到達
音楽業界からの反発は、創業4年のスタートアップであるSunoの快進撃を止められていない。同社の年換算売上高は、2025年10月時点では1億ドル(約157億円。1ドル=157円換算)だったが、2月にはその3倍の3億ドル(約471億円)へと増えた。また、同期間の月あたりの売上高も、約800万ドル(約12億6000万円)から約2500万ドル(約39億3000万円)へと増加した。フォーブスは、同社の2025年の売上高が約1億5000万ドル(約236億円)だったと推定している。
ベンチャーキャピタル(VC)もSunoに強い期待を寄せている。同社はメンローベンチャーズ、ライトスピード・ベンチャー・パートナーズ、マトリックスといった著名VCから3億7500万ドル(約589億円)を調達した。11月の評価額は24億5000万ドル(約3847億円)に達している。Sunoは、フォーブスが世界で最も有望なAIスタートアップを取り上げる「AI 50」リストに2025年に初めて選出され、2026年も再び同リストに名を連ねている。
現在、Sunoでは200万人超のユーザーが月額8〜24ドル(約1256〜3768円)を支払い、数百曲を生成してダウンロードできるプランを利用している。ユーザーは自分が作った楽曲の商用ライセンスも保有する。多くのユーザーは、まず自作の歌詞や事前に録音したボイスメモをシステムに入力する。その上で「物悲しいインディーポップ」や「やわらかなポップピアノバラード」といった、楽曲のスタイルやジャンルの短い説明を加える。趣味で使うユーザーは、ボーカルにドラムのビートを足したり、自分の声のピッチを調整したりすることもある。
SunoのシリーズCラウンド(2億5000万ドル[約393億円])を主導した、メンローベンチャーズのパートナー、エイミー・ウーはこう語る。「消費者はツールを試すためだけに使うわけではない。本当に喜びをもたらし、生活に価値を加えてくれるプロダクトでなければ使わない」。



