プロの音楽プロデューサーはSunoをデモ制作機として利用
こうした反発の裏では、一部プロの音楽プロデューサーやソングライターはSunoを受け入れている。彼らは、あらかじめ書いておいた歌詞をソフトに貼り付け、楽曲のさまざまなアイデアを生成してから、音声編集ソフトで磨き込むための、いわばデモ制作機としてSunoを使っている。ただし、彼らは表向きにはその利用を明かしていない。
「我々は音楽業界にとっての肥満治療薬のオゼンピックのような存在になった。みんな使っているのに、誰もそのことを話したがらない」とシュルマンは語る。Sunoは9月、ユーザーが楽曲を作成、編集し、複数のトラックを重ねられる音声ワークステーション「Studio」を公開した。これにより、プロデューサーは作業工程の一部を短縮できるようになった。
しかし、Sunoはソングライターを目指す人や、母親の誕生日に合わせたオリジナル曲を作りたい人にとっては楽しいツールだ。それとAI音楽への懐疑は、別の問題である。「AIが作った音楽を本当に聴きたい人はいるのだろうか。そもそも、その音楽は良いものなのか?」という疑問は残る。音楽業界がますます飽和し、成功を目指す人間のアーティストが苦戦する中で、AIによる粗製乱造は何をもたらすのだろう。
Sunoと大手レーベルの歩み寄りが始まる
これはSunoにとっても、音楽業界そのものにとっても、存続に関わる問いだ。レコード会社は当初、Sunoと法廷で争っていたが、次第に歩み寄り始めている。Sunoは2025年11月、ワーナーと和解し、Sunoの音楽生成モデルにライセンス取得済みの録音物を使うことや、ダウンロード機能を有料会員に限定することを盛り込んだ契約を結んだ。これは両社に利益をもたらす合意だ。
2025年の売上高が67億ドル(約1.05兆円)だったレコード会社大手ワーナーにとって、この提携は「新たな収益源」になると、CEOのロバート・キンクルはフォーブスに語る。ワーナーはSunoの売上高の一部を取り込み、その収益を、自分たちの音楽をAIの訓練用にライセンス供与することを選んだアーティストやソングライターと分け合える。「Sunoのようなツールは、誰でも簡単に創作できる環境をつくる」とキンクルは語る。
同じ大手でも、2025年の売上高が144億ドル(約2.26兆円)のユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)のように、Sunoと合意に至っていない企業もある。UMGは、AI生成楽曲の利用は専用アプリ内に限定されるべきだと考えている。UMGは、AI生成楽曲がダウンロードされ、ソーシャルメディアやストリーミングプラットフォーム上で共有されるべきではないと主張する。そうした場ではAI生成楽曲が人間のアーティストと競合し、ただでさえ縮小しているロイヤリティ収入の分配原資から、人間のアーティストが報酬を得ることを難しくするからだ。
UMGのデジタル担当幹部、マイケル・ナッシュは、ビルボードのポッドキャストで、この問題が両社の和解協議の「争点」になっていると述べた。和解協議は、UMGが2024年にSunoを提訴して以降、続けられている。
「世界中の音楽ファンの数にも、彼らが音楽に費やせる時間にも限りがある。我々は、アーティストが何百万もの楽曲を吐き出せる機械と競争しなくて済むようにしたい」と、音楽アーティスト連合(Music Artists Coalition)のエグゼクティブディレクター、ロン・グビッツは語る。
Sunoはすでに勝利を収めていると主張
だが、シュルマンは、自分がすでにある程度勝利を収めていることを理解している。AI音楽をSNSで共有しないよう人々に促しても、ほとんど意味はない。特に彼は、将来の音楽制作においてSunoが当たり前の存在になると見ているからだ。彼はまた、音楽業界が市場を「限られたパイ」として捉える発想を一蹴する。AIによって、より多くの人が音楽に関わるようになれば、音楽エコシステム全体に流れ込む資金が増え、すべてのアーティストに恩恵が及ぶ可能性があるからだ。
「AIが生成した音楽と、AIを使っていない音楽を区別するような世界にはしたくない。いずれ、あらゆる音楽のどこかにAIが入るようになる」と、シュルマンは2月、ハーバード・ビジネス・スクールの学生を前に語った。「非常に多くのプロがSunoを使っており、あなたたちが聴く音楽にも、最終的にはSunoが細かな形で入り込むことになる」。
ただ、人間のアーティストにはまだ優位性が残っている。Sunoだけで生成した楽曲は、ラジオで流れていても違和感はないが、聴き終えたそばから忘れてしまうようなクオリティにとどまっている。曲としての要素はそろっているものの、歌詞からベースラインまでAIだけで生成した楽曲には、人間らしい癖や感情に訴える力が欠けているからだ。「音楽は感情の言語だ。失恋を乗り越えるとはどういうことかを、ロボットに語ってほしいと思うだろうか」と、ある音楽業界の幹部は語る。
Sunoはその解決策として、楽曲に抽象性や偶然性を加えられる「ウィアードネス(weirdness)」と呼ばれるスライダーを用意している。このスライダーを上げていくと、60%前後からまずまずのアイデアが出始める。AIは過去の音をまねることには非常に優れているが、人間が方向づけなければ、本当に新しいものを生み出すにはまだ少し届かない。少なくとも現時点では。


