暗号資産

2026.05.08 17:00

トランプの次男エリック、MAGA派投資家に損失を負わせる「ビットコイン事業」で富を獲得

トランプ米大統領の次男エリック・トランプ(Photo by Romain Maurice/Getty Images)

トランプ米大統領の次男エリック・トランプ(Photo by Romain Maurice/Getty Images)

ドナルド・トランプ米大統領の次男エリック・トランプは、ビットコインの採掘(マイニング)企業「アメリカン・ビットコイン」の共同創業者だ。同社は2025年9月にナスダックに上場した。エリックは、ビットコインを市場価格の約半額で採掘できる「金のなる木」のような事業だと、同社を売り込んできた。

しかし、株価はピーク時から92%下落している。株を信じて買った一般投資家は、推定5億ドル(約780億円。1ドル=156円換算)の含み損を抱える。これに対し、ほとんど資金を投じていないと見られるエリック自身の個人資産は、その間に推定1億9000万ドル(約296億円)から2億8000万ドル(約437億円)へと膨らんだ。同社のフルタイム社員は、わずか2人にとどまる。

その実態は、MAGA(「米国を再び偉大に」を掲げるトランプ支持層)の熱狂を追い風に、内部関係者が利益を抜き取るアービトラージ(裁定取引)型の仕組みだ。

マイニング企業「アメリカン・ビットコイン」──エリック・トランプの売り込みとは異なる実態

ビットコインのマイニング企業「アメリカン・ビットコイン」の共同創業者エリック・トランプは、2026年2月の決算説明会で、トランプ家が最も得意とするプレゼンを行った。設立からわずか1年の同社は、その頃すでにナスダックに上場していた。「我々は急速にビットコイン業界のリーダーになりつつある。本当に、あらゆる面で最高のブランドを持っていると思う。マイク、アッシャー、マット、そしてアメリカン・ビットコインのチーム全員に感謝したい」とエリックは語った。

ここで気になるのは「チーム全員」という言葉だった。というのも、アメリカン・ビットコインにはほとんど社員がいないからだ。決算説明会の1カ月後に提出された年次報告書によれば、同社のフルタイム従業員は、CEOのマイク・ホーと社長のマット・プルサックの2人だけと見られる。ほかにも数人がいる可能性があるが、ホーは別の会社でも幹部を務めている。ホーの別会社で1年に満たない間IR業務に携わっていた人物は、現在リンクトインで自らをアメリカン・ビットコインの「チーフ・オブ・スタッフ」と名乗っている。また別の人物は、2026年1月に同社のSNS担当として働き始めたと記している(5人の取締役会は、会長のアッシャー・ジェヌート、ホーに加え3人の社外取締役で構成されている)。

トランプ家は長年、事業を実態以上に大きく見せることで利益を得られることを学んできた。ドナルド・トランプの父フレッド・トランプは、開発プロジェクトのコストを実際より高く装うことで当局を欺き、利益を膨らませたとされる。トランプ自身も、自らの資産価値について銀行やフォーブスなどのメディアに虚偽の説明を行い、ニューヨーク州の裁判官から詐欺行為と認定された。エリックもまたこの件に関与しており、ニューヨーク州の企業で役員や取締役を務めることを2年間禁止された。それでも彼は、デラウェア州で法人を設立し、フロリダに本社を置く新会社を立ち上げ、父や祖父が誇りに思うであろうやり方で事業を売り込んでいる。

エリック・トランプの最新のビットコイン事業は、実体のあるビジネスというより、物語を売っている可能性がある。彼の説明では、アメリカン・ビットコインは、ビットコインを市場価格のおよそ半分のコストで採掘できるため、金を刷るように利益を生み出せるという。しかし、数字を詳しく見ると、同社がこうした大きな利幅を実現できるかには疑問があり、そもそもビットコイン採掘で安定して利益を出せるのかもはっきりしない。エリック・トランプ、トランプ・オーガニゼーション、アメリカン・ビットコインの各代理人は、コメント要請を繰り返しているが応じていない。

上場時に2兆円超と評価された同社株は、ピーク時から92%下落

それでも、多くの人々が大統領の息子を信頼し、自らの資金を投じている。アメリカン・ビットコインは2025年9月3日に上場した。当時、同社のバランスシート上には推定2億7000万ドル(約421億円)相当のビットコインがあったが、投資家は同社の価値を132億ドル(2.06兆円)と評価した。

その後の8カ月間、アメリカン・ビットコインは、この桁外れの評価額を背景に株式を売却し、多くのビットコインを購入してきた。その結果、株式は大幅に希薄化し、現在の株価はピーク時から92%下落している。だが、この事業にほとんど資金を投じていないと見られるエリック・トランプの懐は傷まない。彼は錬金術のような手法で個人資産を推定1億9000万ドル(約296億円)から2億8000万ドル(約437億円)へと増やした。ほかの内部関係者も同様に利益を得ている。ところが、その売り文句を信じて株式を購入した一般投資家は、推定5億ドル(約780億円)の含み損を抱えている。

慈善団体からホテル・ゴルフ場まで、現場でトランプ家の手法を受け継ぐ

エリック・トランプが最初に手がけた大きな単独プロジェクトは、コンドミニアムの高層ビルではなく、慈善団体だった。2006年に金融と経営の学位を取得してジョージタウン大学を卒業した彼は、世界にインパクトを与えたいと考えていた。兄のドナルド・トランプ・ジュニアと姉のイヴァンカは当時すでにトランプタワーで働き、不動産取引に携わっていた。エリックは、後のフォーブスのインタビューで、ある日ニュージャージー・ターンパイクを走っているとき、「自分の関心は別の方向、つまり世界にどのような変化をもたらせるかという問題に向かった」と振り返っている。こうして、彼の起業家としての原点となる、エリック・トランプ財団という非営利団体が設立された。

この団体は当初、資金集めの組織としての役割を超え、セント・ジュード小児研究病院に1600万ドル(約25億円)超を拠出するなど、善意の取り組みを行った。しかし年を重ねるにつれ、この団体とエリック自身は、よりトランプ家らしい姿を帯びていった。フォーブスは、同団体の法務チームの反対を押し切って、情報公開請求を通じて内部文書を入手した。その内容を精査したところ、同団体には、不誠実な売り文句や脆弱なガバナンス、不透明な財務などの問題があった。

エリック・トランプは寄付者に対し、経費を抑え、寄付金のほぼすべてをセント・ジュードに直接届けていると説明していた。彼は、父がトランプ系列のクラブを無料で使用させ、有名人も「無償」で出演に応じてくれているため、費用を抑えられると説明していた。しかし、フォーブスが確認した小切手や請求書によれば、それぞれ50万ドル(約7800万円)以上が、別の慈善団体とトランプ関連施設に支払われていた。また、少なくとも9万ドル(約1400万円)がさまざまな出演者に、3万5000ドル(約546万円)超が運転手付き送迎サービスに支払われていた。この送迎サービスは、エリックの母親や、リアリティ番組『リアル・ハウスワイブス』の出演者、フーターズのレストランに向かう人々をスプリンターバンで送迎していた。

本業でも、エリックは初期の多くの時間をホテル事業に費やした。そこで彼は、実際に事業を築くよりも、ブランドを貸して収益を得る方がはるかに簡単だということを学んだ。トランプ・オーガニゼーションは2008年、シカゴで建設したホテルを担保にした融資で債務不履行に陥った。さらに2009年には、アトランティックシティの保有資産について破産を申請した。その後もワシントンD.C.のホテルでは、毎年のように収益化に苦戦した。結局、トランプ家はホテル帝国を、自ら開発するのではなく運営管理やライセンス供与に軸足を置く、業界で「アセットライト」と呼ばれる手法へ転換した。

父ドナルドのゴルフ場で、型破りな資金調達の仕組みを目の当たりにした

エリックにとって、もう1つの重要な学びの場となったのが、父のゴルフ場への投資の現場に立ち会ったことだった。彼はそこで、型破りな資金調達の仕組みが大きな利益につながることを目の当たりにした。1980年代から1990年代にかけてのゴルフクラブは、入会者からデポジットを受け取り、30年後に無利子で返還すると約束するケースが多かった。こうした返還義務はクラブの帳簿に債務として残るため、クラブが売りに出されても、多くの投資家は将来の支払い負担を警戒して手を出さなかった。

だが、ドナルド・トランプは違った。彼は、こうした返還義務を恐れずに投資を行い、最終的に約2億5000万ドル(約390億円)相当の債務を引き受けた。そのおかげで彼は、全米各地に十数カ所のゴルフ場を保有するまでになった。トランプは長年にわたり、自身の個人バランスシート上でそれらの債務をゼロと評価していた。デポジットの返還期限が到来し始める頃には、ゴルフ場の価値はトランプが負っていた債務を大きく上回っていた。

2017年1月、トランプが大統領に就任すると、エリックと兄のトランプ・ジュニアは、父の資産ポートフォリオの運営を引き継いだ。だが、エリックには、父のやり方を受け継ぐ以外の構想はなかったようだ。その年の2月、トランプタワー25階でフォーブスの取材に応じたエリックは、「我々は資産を売る会社ではない。我々は物件を買い、魅力あるものに変える」と語っていた。

トランプの息子3人は、中価格帯のホテルブランド2つを含む新規事業を試みたが、大きな成功は得られなかった。事業が苦戦し、父の手元資金も乏しくなる中で、彼らはその後7年間、エリックが「しない」と語っていた資産の売却を進めていった。売却額は合計で推定4億1100万ドル(約641億円)に上った。

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翻訳=上田裕資

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