暗号資産

2026.05.08 17:00

トランプの次男エリック、MAGA派投資家に損失を負わせる「ビットコイン事業」で富を獲得

トランプ米大統領の次男エリック・トランプ(Photo by Romain Maurice/Getty Images)

アメリカン・ビットコインの事業実態は、採掘よりも株式売却に支えられている

2025年には、上場企業がビットコインを大量保有する投資手法が一大ブームとなった。200社を超える上場企業が、マイケル・セイラー率いるストラテジーの手法をまねたためだ。500億ドル(約7.8兆円)超のビットコインを保有するストラテジーの株価は2025年、ビットコイン価格の急騰に伴って大きく上昇したが、足元の株価は急落している。そうした企業の中でアメリカン・ビットコインが際立っていた理由は明白だった。トランプ家とのつながりだ。

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だが、アメリカン・ビットコインが上場した9月3日、Xのスペースに参加したエリックは、トランプ家とのつながりではなく、数字を前面に出した売り込みを行った。「我々は、1ビットコインあたりの採掘コストを5万7000ドル(約889万円)や5万8000ドル(約905万円)程度に抑えている。これ以上ないほどファンダメンタルズは強い」と彼は語り、当時の1ビットコインの価格がその約2倍だったことを指摘した。

この説明には説得力があった。ただし、それを語っていたエリックは、慈善資金集めイベントを主催していた頃から、不都合な経費を曖昧にしていた。彼が挙げた「5万ドル(約780万円)台半ば」のコストは、アメリカン・ビットコインの採掘機器を稼働させるための費用を示していたにすぎない。そこに、採掘機器の購入費や会社のマーケティング費用、資本配分に伴うコストなどを加えると、当時の採掘コストは1ビットコインあたり約9万2000ドル(約1400万円)近くにのぼっていた。つまり、ビットコインが高値を維持しなければ、利益を出せない水準だった。

Hut 8から引き継いだ型破りな資金調達手法を採用しているアメリカン・ビットコインにとって、減価償却を考慮することはきわめて重要だ。同社は、2025年8月と9月、採掘機器の大規模な更新に約3億3000万ドル(約515億円)を投じた。しかし、エリックの会社は現金を前払いするのではなく、ビットコインを担保として差し入れ、最終的な支払い方法を選べるオプションを確保した。ビットコイン価格が上昇すれば、同社は推定3億3000万ドル(約515億円)を現金で支払い、担保に差し入れたビットコインを手元に残すことができる。逆に、ビットコイン価格が下落すれば、アメリカン・ビットコインは現金ではなく暗号資産で支払うことができる。

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この大規模な設備投資以降、ビットコイン価格は約30%下落した。その結果、アメリカン・ビットコインは現金で支払うよりも、担保に差し入れた暗号資産を引き渡して採掘機器の代金に充てる可能性が高くなっている。ただ、問題はここからだ。アメリカン・ビットコインが担保に差し入れているビットコインは、3月25日時点で合計3090BTCに上る。一方、同社がこれまでに採掘したビットコインは推定1800BTCにとどまる。つまり、価格が回復しなければ、2027年8月ごろにオプションの期限が切れ始めた時点で、同社がこれまで採掘したビットコインはすべて、採掘機器の代金に充てられて相殺される可能性が高い。

ただし、投資家がその構造を必ずしも理解しているとは限らない。アメリカン・ビットコインには、採掘機器の代金を暗号資産で支払うのか、現金で支払うのかを決めるまで、まだ15カ月ほどの猶予がある。その間、採掘したビットコインは同社のバランスシート上に残る。その結果、アメリカン・ビットコインは実態よりもはるかに財務基盤が強いように見える。同社は、このビットコイン保有を投資家に対する最大の説得材料にしている。だが、その全額を採掘機器の代金支払いに差し出さなければならなくなる可能性については、十分に説明していない。

この支払い方法がトランプ家にとって魅力的に映った理由は、投資家向けに見栄えがよいという点だけではない。彼らはかつて、同じように型破りな資金調達を利用してゴルフ場ポートフォリオを築いたからだ。ただし、その賭けでは、実際に資産価値が上昇したため、トランプ家は最終的に有利な立場に立つことができた。

保有暗号資産の70%は、採掘ではなく株式売却を通じて獲得

アメリカン・ビットコインが保有する暗号資産の約70%は、採掘によるものではなく、株式を売却し、その資金で公開市場から購入したビットコインによるものだ。ここに、アメリカン・ビットコインの根本的な秘密がある。Hut 8はなぜ、設立間もないデータセンター会社に、自社のビットコイン採掘機器の20%持ち分を実質的に譲り渡したのか。おそらく、ミーム株とMAGA熱が広がる時代には、トランプ家とのつながりがあれば、投機的な個人投資家の資金を呼び込み、株価を天文学的な水準まで押し上げられるからだ。

そうなれば、株価が合理的に説明できない水準で取引されている間に、会社は自社株を売却し、その資金をビットコインに再投資できる。こうして、同社は大量の暗号資産を積み上げていく。これは、投資家に会社の価値が非常に高いと信じ込ませ、株価がばかげた水準にあると分かっている間に株式を売却する、熱狂に支えられたアービトラージだ。この見せかけの仕組みが、採掘機器の20%持ち分の価値を上回る資金を生み出す限り、それを仕掛けた内部関係者にとっては利益を生む手法になる。もっとも、その株を買う一般投資家にとって利益になるとは限らない。

こうした株式売却は、上場直後から始まった。アメリカン・ビットコインは上場後27日間、話題性が高まる中で1100万株を9000万ドル(約140億円)で売却し、1株あたり平均約8ドル(約1248円)で資金を調達した。この取引では、外部業者が200万ドル(約3億1000万円)の取り分を受け取った後、アメリカン・ビットコインは推定725BTCを購入した。

その後も、株価が下落基調をたどる中で株式売却は続いた。10月初めから11月中旬にかけて、アメリカン・ビットコインは700万株を4400万ドル(約69億円)で売却し、1株あたり6ドル(約936円)強を得た。11月下旬ごろ、ビットコイン価格が大きく下落した後、同社は年末にかけて売却規模を一段と拡大し、4700万株を約1億600万ドル(約165億円)、1株あたり約2.25ドル(約351円)で売却した。

株価の押し下げ要因となったのは、株式の売却のみではなかった。12月初旬に初期投資家の売却制限が順次解除されると、同社株は2営業日で48%下落した。これを受けて、著名な支持者は、市場の不安を和らげようとした。暗号資産の熱心な推進者であるキャメロン・ウィンクルボスとタイラー・ウィンクルボスは、アメリカン・ビットコインへの支持を表明した。両氏はこれまで、特別政治活動委員会(スーパーPAC)への献金やホワイトハウスのボールルーム建設支援などを通じてトランプ家との接近を図ってきた人物だ。

ホワイトハウスの広報部長を短期間務めたアンソニー・スカラムーチも同様だった。同じく支持に回ったカンファレンス主宰者のグラント・カードンも「自分はトレーダーではなく、長期投資家だ」と語り、自身のXの投稿が「投資の助言ではない」と述べていた。アメリカン・ビットコインのSNSアカウントは、こうした投稿をフォロワーに向けてすべて再投稿した。カードンとウィンクルボス兄弟はコメント要請に応じず、スカラムーチの代理人は質問への回答を拒否した。

ビットコインの価格は、その後も下落を続け、1月にFRBが利下げを停止すると下げが一段と目立った。それでも同社は戦略を変えず、1月1日から3月25日にかけて8400万株を1億1100万ドル(約173億円)で売却すると同時に、約1430BTCを追加で購入したとフォーブスは推定している。合計すると、アメリカン・ビットコインが設立から3月下旬までに暗号資産に投じた金額は推定5億2500万ドル(約819億円)にのぼる。その価値は現在、3億9000万ドル(約608億円)にまで低下している。つまり同社はその過程で、1億3500万ドル(約211億円)の損害を株主に与えたことになる。

アメリカン・ビットコインは現在も採掘を続けている。しかし、同社が上場して以降、ビットコイン価格は31%下落しており、採算はますます厳しくなっている。新たな採掘機器の調整を進めたことで、それらを稼働させるためのコストは1ビットコインあたり約4万7000ドル(約733万円)まで低下した。しかし、間接費や償却費、減価償却費を含めた総コストは、今なお1ビットコインあたり推定9万ドル(約1400万円)に上る。これは現在のビットコイン価格を約1万3000ドル(約203万円)上回る水準だ。アメリカン・ビットコインの株価は、年初から29%下落している。

投資家が、この会社は「金を刷るように利益を生み出す」という幻想を信じなくなれば、大統領の息子であるエリックにできるのは、ビットコイン価格が再び急騰することを祈ることのみだ。ビットコインは、結局のところ値動きが極めて激しい資産だ。フォーブスの試算によれば、ビットコイン価格が35%上昇した場合、アメリカン・ビットコインは採掘機器の代金を現金で支払うことができ、保有する暗号資産も維持できる。その上で、1億3500万ドル(約211億円)の取引損失をわずかな利益に転じることが可能になる。そうなれば、大統領の息子は、この荒い値動きもすべて計画の一部だったと主張できるだろう。

アラブ首長国連邦(UAE)の政府系投資家との取引を検討

あるいは、エリックが会社の成否を運任せにしたくないのであれば、支援に前向きな外国人投資家を見つけることもできるかもしれない。アラブ首長国連邦(UAE)のタフヌーン・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーンは、すでに別のトランプ関連の暗号資産事業に関与している。彼はその事業を通じて、推定3億7500万ドル(約585億円)を大統領とその息子3人にもたらした。タフヌーンの投資はこれまでのところ、金銭的なリターンという点では疑問が残るが、UAEはAI分野での野心的な計画を進める上でトランプ大統領の支援を受けた。現在、同国はイランでの戦争がもたらした経済的な課題を受け、米国に救済を求めていると報じられている。

アメリカン・ビットコインのCEOであるマイク・ホーは、少なくとも2023年11月時点ではUAEに居住していたが、同社の代理人は、ホーの現在の居住地に関する問い合わせに応じていない。いずれにせよ、ホーは2025年10月にUAEで行われたアラビアン・ガルフ・ビジネス・インサイトの取材で、ADQおよびTAQAとの協議に言及していた。ADQはタフヌーンとつながりを持つ投資グループ、TAQAは同様につながりを持つエネルギー企業だ。

アメリカン・ビットコインの広報担当者は10月、ホーが言及したのはアメリカン・ビットコインの設立前に行われた協議だったとフォーブスに説明した。しかし、フォーブスが最近入手したその会話の記録からは、アメリカン・ビットコインが海外勢との取引に前向きであることがうかがえる。

「私はここで、Hut 8の案件でもアメリカン・ビットコインの案件でも、多くの政府系投資家と会ってきた。協議は常に行われている」とホーは、その会話の中で述べていた。この地域でビットコイン採掘事業を検討するかと問われた彼は、「我々はこの地域での事業展開を常に検討している。ADQやTAQAとはすでに話をしたし、ポートフォリオも検討した。UAEには余剰電力が大量にあり、ビットコイン採掘はその余剰電力をマネタイズするための優れた方法だ」と答えていた。

この発言は、安く使える余剰電力を見つければ、そこに絶好のアービトラージの機会があるとすぐに見抜く人物らしいものだといえる。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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