経済・社会

2026.05.08 09:00

半導体版ホルムズ危機「チップフレーション」が世界を襲う可能性

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サムスン電子は、アジア企業として2社目となる時価総額1兆ドル(約156兆円)の大台を突破した。この事実は、二つのメッセージを示している。第一に、AIへの投資熱が戻ってきたこと。第二に、「チップフレーション」、すなわち半導体価格の上昇が、ホルムズ海峡危機のような価格ショックになりかねないことだ。

多くの人はサムスン電子を総合家電・デバイスの世界的大手として認識している。だが同社は、世界最大の半導体受託製造企業であるTSMCに対する「セカンドソース(代替供給源)」としての重要な役割も担っている。2ナノメートルという最先端の製造プロセスで半導体を生産できるためだ。

そして、その事業部門は猛烈な勢いで成長している。最新の決算発表によれば、サムスン電子の半導体事業の利益は前四半期に4800%増えた。この業績に加え、アップルとの提携がうわさされたことで、同社は事実上、時価総額1兆ドル企業の仲間入りを果たした。

この動きの中心にあるのは、大手テック企業の支出である。米国のAI大手5社は、今年7000億ドル(約109兆円)を投じる見通しで、その大半はデータセンター向けだ。比較のために言えば、これは2025年の支出額のほぼ2倍にあたる。

半導体メーカーは、この支出の勢いにほとんど追いつけていない。半導体メーカーの利益率にとっては好材料だが、この供給逼迫は電子機器メーカー、さらには建設プロジェクトにまで不足を引き起こしている。

まず、「チップフレーション」はすでに消費者向け電子機器に波及している。

アップルは先週の決算発表で、iPhoneやMac向けの半導体調達に苦労していることを明らかにした。ティム・クックCEOは「メモリーコストは、当社事業への影響を今後さらに強めるとみています」と述べた。

前四半期の決算では、レノボ、デル・テクノロジーズ、HPなどのパソコンメーカーも、最終製品価格が最大20%上昇する可能性があると警告した。

デルのデビッド・ケネディCFOは「部品需要が供給を上回る環境のなかで、顧客は自社のニーズと優先順位を見極めています。その結果、投入コストが上昇し、納期も長期化しています」と述べた。

電子機器のインフレは最もわかりやすい副作用だ。しかし、データセンター計画もまた、専門技能を持つ職人の供給を静かに吸い上げている。

OpenAIはホワイトハウス宛ての公開書簡で、同社が計画するデータセンターには、電気技師や機械工などの職種で既存労働力のおよそ20%が必要になると警告した。

ゴールドマン・サックスのエコノミスト、マヌエル・アベカシスの試算によれば、AIは昨年、コアPCE価格指数(個人消費支出)を0.3ポイント、総合インフレ率を0.1ポイント押し上げた。さらにスティーフルのトーマス・キャロルによれば、テック製品の価格が賃金よりも速いペースで上昇するのは65年ぶりの出来事だという。

ホルムズ海峡情勢を背景に夏までに15億バレルと見込まれる原油不足と相まって、今年後半に再びインフレの大波が押し寄せる条件はそろいつつある。

forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

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