中東情勢が悪化して以降、金(ゴールド)価格は11%下落している。金は通常、危機時に投資家が殺到する資産とされるため、これは異例の動きだ。だが、米証券会社の最新の報告書によると、この売り圧力は金への信頼の低下というより、むしろ現金を必要としている金の大口保有者の存在を示しているという──。
中東情勢が混乱すれば、金は投資家にとっての避難先となるはずだった。ところが、2月28日に米国がイランへの攻撃を開始して以降、金価格は11%下落しており、「安全資産」としての評価に疑問が投げかけられている。
この結果は逆説的に思える。世界情勢が不安定になると、安全資産の価格は上昇するのが通例だ。しかし、顧客資産2兆3000億ドル(約359兆円)を擁する米国最大級の独立系証券会社LPLフィナンシャルが公表した最新の報告書によると、今回の売り圧力は失敗の兆候ではないという。
LPLでマクロ戦略を統括するクリスチャン・カーは、金は単に避難先として機能しているのではなく、現在は別の役割を果たしていると説明している。金は商品、準備資産、そしてストレスがかかる時期にはドルの代替資産として機能しているのだ。
アラブ首長国連邦(UAE)をはじめとするペルシャ湾岸諸国は、ホルムズ海峡の封鎖により石油輸出が制限されたことで、ドル資金の調達に支障を来している。石油輸出はドルを生み出す。輸出量が減れば、ドルの流入も減る。支払期日が到来すれば、各国政府は価値の保存手段より流動性を必要とする。
トルコは、その現実を示す好例と言えるだろう。エネルギー危機を受けて通貨リラへの圧力が高まる中、同国の中央銀行は3月、市場の安定化を図るため、わずか1週間で30億ドル(約4700億円)相当の金準備を売却した。
これが、金価格の異例の下落を説明する1つの要因となっている。通常、地政学的な不安が高まると、投資家は金に殺到する。だが、政府や中央銀行が現金を必要とする場合、金は資金調達源になるのだ。
カーは、金の売り圧力はまだ終わっていない可能性があると警告している。大規模なエネルギー供給の混乱に見舞われた政府は通常、まず燃料供給の回復、財政の安定化、外貨準備の補充に注力するが、これにはすべてドルが必要となる。
最近の金価格の下落は、投資家が金への信頼を失ったことを意味するのではなく、世界最大級の金保有者の一部が、資産保全より現金を必要としていることを示している。そして、危機の際に財務上の柔軟性を提供する資産として期待されている金が、いわば本来の役割を果たしていることを意味する。



