2025年6月に発表された論文によると、都市住民は1日当たり約3200個のタイヤ摩耗粒子を日常的に吸入しているという。交通量の多い地域では、微粒子により喘息の発症率が18~25%増加し、大気1立方メートル中の粒子濃度が10マイクログラム増加するごとに、心血管疾患による死亡率が12%高まるとも指摘されている。タイヤ摩耗粒子は、幹線道路付近の住民の高血圧(脳卒中や心臓発作の原因になり得る)の増加とも関連している。さらに、タイヤの摩耗によるナノ粒子が胎盤関門を通過する能力を持つことから、発育や生殖にリスクをもたらす可能性を示唆する証拠もある。私たちが呼吸する空気中にタイヤやブレーキの摩耗粒子が含まれていることには何の利点もない。
私たちに何ができるのか?
まず大きな変化をもたらすのは、道路を走る自動車の数を減らし、車体を軽量化することだろう。車の大型化は都市にとって大きな問題となっている。
道路を走るすべての自動車を電動化すれば、大気の質は大幅に改善されるかもしれないが、必ずしも排気ガス以外の排出物を軽減できるわけではない。バッテリーを搭載しているため、電気自動車(EV)は一般的にガソリン車より重く、タイヤの摩耗が進みやすい。ストックホルムで行われた研究では、同市の道路を走るすべての乗用車をEVに置き換えた場合、市内のタイヤ摩耗粒子濃度が13%増加することが示された。興味深いことに、EVは回生ブレーキを採用しているため、ブレーキ摩耗に関しては状況が異なる可能性がある。中国の研究者らは、連続ブレーキ操作下で、EVから発生するブレーキ摩耗粒子はガソリン車の3分の1程度であることを発見した。
EUのユーロ7の導入を契機に、自動車業界はブレーキやタイヤの製造方法を見直している。ブレーキディスクの新素材やコーティング、設計が開発中で、これまで「最高級」とされていたブレーキシステムの一部が、より広く採用されるようになっている。タイヤ業界は、耐久性の高いタイヤ素材の開発に加え、新たな組み立て技術や試験設備の開発に注力している。ユーロ7の一環として、EUではタイヤに耐摩耗性能の表示が義務付けられる。自動車メーカーは、内装への軽量素材の採用拡大も目指している。こうした改善が、EU域外にも徐々に広がっていくことが期待されている。
個人レベルでは、運転技術を向上させるだけで、非排気ガスによる汚染物質の排出量を大幅に削減することができる。具体的には、急加速や急カーブを避け、停止を予測して緩やかな操作で減速することだ。保守点検も重要な要素で、タイヤの空気圧を適正に保ち、不必要に重い荷物を積まないように心がけよう。
歩行者にできることは、排気ガスにさらされないようにすることだけだ。道路からできるだけ距離を保つようにしよう。これまで見てきたように、交通量の多い場所ほど汚染物質の排気量も増える。自転車利用者や慢性疾患を抱える人が交通量の多い場所を避けられない場合、密着性の高い医療用マスクの着用を検討しよう。英BBCが2月に報じたように、交通量の多い地域で呼吸器を保護することで、血液中に取り込まれる大気汚染物質を減らすことができる。
どのような移動手段を利用する場合でも、この種の汚染について地方や国の政治家に意見を伝え、EUで導入されるような政策の実現に向けて働きかけることができる。


