都市の空気中に潜むもの
カナダの科学者らは最近、トロント大都市圏の8カ所で1年間にわたり大気サンプルを採取した。調査対象は、閑静な住宅街から北米で最も交通量の多い高速道路401号線の一区間まで多岐にわたった。調査したすべての場所で、単なるゴムだけでなく、タイヤ由来の化学物質が検出された。タイヤ製造で加硫剤として使用されるベンゾチアゾール類と呼ばれる化合物は、大気サンプルの94%から検出され、交通量の多い道路付近で最も高い濃度を示した。6PPDキノンもタイヤの主要成分の1つで、交通量の多い場所で高濃度で検出された。タイヤ用の酸化防止剤であるTMQは、交通量の多い場所でのみ検出された。研究者らは季節による差異も指摘しており、大気中のタイヤ関連化学物質の濃度が最も高かったのは冬期だった。これは、通常のタイヤより摩耗粒子を多く放出する、硬めの冬用タイヤの使用が原因だと考えられている。
トロントを拠点とした別の研究では、カナダとイタリアの環境科学者グループが排気ガス以外の排出物を検出するため、エベルニア・プルナストリと呼ばれる地衣類の一種を用いた。グループは夏の2カ月間にわたり、この地衣類を401号線からさまざまな距離に設置し、大気にさらした。その結果、道路から離れるにつれて、タイヤ粒子の濃度が劇的に低下することが判明した。高速道路から5メートルの距離では、地衣類1グラム当たり1万7500個以上の粒子が検出された。150メートルの距離では、粒子数は同1500個まで減少したが、粒子の大きさは道路からの距離に関係なくほぼ一定だった。ブレーキ摩耗粒子に関しては、アンチモン(ブレーキの一般的な成分)と磁化率(金属粒子の存在を示す指標)の両方が、35メートル以内で70%という大幅な減少を示した。
スウェーデン国立道路交通研究所の研究者らは2023年、タイヤ摩耗粒子が都市部に広く分布していると結論付けた。この研究では、交通量の多い幹線道路沿いや、高層ビルに囲まれた通気性の悪い地帯で、タイヤ摩耗粒子の濃度が最も高いことが示された。首都ストックホルム中心部の約30キロ四方の調査区域では、タイヤ摩耗による全粒子の総排出量が年間960トンに達すると推定されたのに対し、排気ガス由来のPM10排出量は51トンだった。
ドイツ東部ライプチヒの化学者らは、都市の大気中に浮遊するマイクロプラスチックとナノプラスチックが人間の健康に及ぼす影響に焦点を当てた。この実験から検出されたプラスチック粒子の約3分の2に当たる65%は、乗用車やトラックからのタイヤ摩耗粒子によるものだった。
人体への影響
ライプチヒの研究によると、住民は空気を通じて1日に少なくとも2.1マイクログラム、年間では0.7ミリグラムのプラスチック粒子を吸入していると推定され、その粒子の大部分はPM2.5の大きさに分類される。これらの微小粒子は、粗大粒子より呼吸器系の奥深くまで侵入することが分かっている。その結果、都市住民は心肺疾患や肺がんのリスクが大きいと指摘されている。トロントの研究で各測定地点から検出されたタイヤの成分も、急性毒性や酸化ストレス、慢性的な呼吸器系・心血管系の問題と関連していることが示された。


