支出データは別のことを語る
SaaS株が崩壊する一方で、エンタープライズソフトウェア支出は静かに15%増加し、2026年に1兆4000億ドル(約219兆円)へと伸びた。世界のIT支出は6兆3000億ドル(約985兆円)に達する見込みだ。AI支出だけでも今年2兆ドル(約313兆円)に到達する。資金はソフトウェアから離れているのではない。別のソフトウェアへと移動しているのだ。そしてそれを取り込む企業には、明確な共通プロファイルがある。
Palantir(パランティア)の売上高は前四半期、前年同期比70%増となり、米国の商用売上は137%増、調整後の営業利益率は57%だった。CrowdStrike(クラウドストライク)は売上高を22%増の48億ドル(約7500億円)へ伸ばし、純増ARR(年間経常収益)は10億ドル(約1560億円)超を積み上げた。AIはサイバーセキュリティの必要性を消し去るどころか、劇的に高める。ServiceNow(サービスナウ)のAI製品「NowAssist」は2025年に契約価値6億ドル(約938億円)を生み、今年は10億ドル超のペースにある。Salesforce(セールスフォース)の「AgentForce」のARRは、1四半期で169%急増した。
彼らは「生き残り」ではない。加速剤である。AIは彼らのビジネスモデルを脅かさなかった。企業がすでに手放せない既存プラットフォームの上に、新たに売るべきプロダクトラインを与えたのだ。
「機能」か「プラットフォーム」か
ソフトウェアスタックを評価するCEOやCTOにとって、重要な問いは「このベンダーは『機能』か、それとも『プラットフォーム』か」という残酷なほど単純なものだ。
機能は吸収される。プラットフォームは吸収する。その違いは3点に集約される。
・独自データの堀(Proprietary data moats)
Palantirは単にソフトウェアを売っているのではない。AIモデルが取り込むほど価値が増すオペレーショナルデータの上に座している。CrowdStrikeの「Threat Graph」は日々、何兆ものセキュリティシグナルを取り込む。基盤モデル上に構築されたAIエージェントでは、10年分の独自テレメトリー(運用・観測データ)を再現できない。ベンダーの価値が、他では得られないデータに根差しているなら、防衛可能である。
・ワークフローの重力(Workflow gravity)
ServiceNowとSalesforceは、人々が「使うツール」ではない。企業がそれなしでは回らないシステムである。ベンダーがIT運用や顧客関係のSoR(System of Record、記録型システム)であるなら、AIはそれを置き換えない。その中を流れる。自問すべきだ。もしこのソフトが明日消えたら、業務は止まるか。止まるならプラットフォームである。木曜までに回避策を見つけられるなら、それは機能にすぎない。
・AI時代の価格決定力(Pricing power in the AI era)
勝っている企業は、シート単価モデルを完全に超え、既存サブスクリプションの上に消費量ベースのAI課金を重ねている。ServiceNowはNowAssistを課金対象にし、SalesforceはAgentForceを課金対象にする。CrowdStrikeはCharlotte AIを課金対象にする。彼らはAIによる破壊の物語を、収益を増幅させる装置へと変えた。自社が対価を払いたいと思えるAI製品を、そのベンダーがまだ出荷していないなら、それは彼らの立ち位置を物語っている。


