珍しい左利きと、さらに珍しい両利き
左利きが自然選択で劣勢に置かれていたのだとしたら、とっくの昔に消滅していてもおかしくないが、そうはならなかった。これまで研究されてきたありとあらゆる人間の集団で、約10%が左利きだ。また、洞窟の壁画と骨格のエビデンスでは、左利きの割合が何千年にもわたって一定に保たれてきたことが確認されている。
こうした進化を説明づける上で最も説得力があるのは、頻度依存選択(集団内で変異体の出現頻度が下がると、その頻度を上げる自然選択が働き、その逆もあり得るというモデル)だ。戦闘やレスリング、特定のスポーツなどの対面競技では、左利きが有利に働く。それは、競争相手の大半が、右利きを相手にトレーニングを積んできたからだ。左利きは数が少なく、意外と感じられるからこそ、維持の力が働いた。
また、本当の意味での両利きも存在する。ただし、一般向けの文書では、決定的に重要な違いが曖昧になっていることが多い。クロスドミナンス(交差利き)は、作業によって利き手が異なるケースを指す。比較的多く、定義や判定基準にもよるが、人口の約4分の1がクロスドミナンスだ。一方、本当の意味での両利きは、どんな作業でも、左右両方で等しく技術とスピードを発揮できる人であり、存在率はおよそ0.1%だと推定されている。
では、両利きの人の脳内では、何が起きているのだろうか。両利きの人の脳機能イメージングを見ると、通常は左右どちらか一方の脳が優位に働く「半球優位性」があまり示されず、それを補うように、脳梁(左右の脳をつなぐ神経線維の束)がより厚くなっていることがわかる。
運動機能の主導権を完全に握る半球がない場合、脳は、左右の半球をつなぐ情報伝達経路を太くする。こうした、側性化が弱い状態は言語にも及び、両利きの人は、言語機能についても片方に強く偏らない傾向がある。
通説とは異なり、両利きだからといって単純に有利というわけではない。クロスドミナンスの子どもたちを対象にした研究では、言語能力と学習能力で困難を抱えていたり、思春期にかけて、注意力に関連した問題が生じたりする割合が高いことがわかっている。脳の側性化の弱さがこうした結果に直結するわけではないが、典型的な脳の非対称性は、ほとんどの場合、欠陥というよりはむしろ機能(優れた特性)であることが反映されている。左右のバランスに偏りのある脳は、効率的な脳なのだ。
利き手とは、3000万年前から進化が紡ぎ出してきた物語の産物だ。数十もの遺伝子座でゲノムに刻み込まれ、言語を司る脳の半球によって形づくられてきた。そして、何かを教えてくれる右利きの人によって強化されてきた。
利き手は文字通り、いにしえから受け継いだ最古の遺産なのだ。


