さらに時代をさかのぼった、霊長類の脳の進化に関する大規模な比較研究では、ヒトの側性化の神経学的な基盤が、数千万年にわたって形成されてきたことが明らかになった。類人猿の祖先の前頭葉・小脳系では、約3000万年前に極めて重大な変化が起き、ヒトとチンパンジーの系統では約1000万年前にさらなる再編成が行われていたことを、研究チームは突き止めた。私たちヒト属が出現するまでに、脳は、左右非対称性となるようひそかに再構築を進めていたのだ。
人類が右利きに偏向した理由を説明する4つの有力な説
右利きが古代から存在する普遍的な傾向であることはわかったが、さらなる難問は未解決のままだ。左利きではなく右利きに偏っているのはなぜなのか? 半々でないのはなぜか?
こうした疑問については、研究者たちが、互いに矛盾しない仮説を4つ提示している。率直に言うと、そのどれにも、ある程度の説得力があると言える。
1. 道具使用の仮説
4つのうちで最も直感的に納得できる仮説だろう。火打ち石を打ちつけたり、骨を加工したり、槍の穂先を取りつけたりといった精密な作業では、左右の手を非対称的に動かす。利き手できめ細かい動きを行いながら、もう片方の手で全体を安定させる、といった具合だ。自然選択は、そうした分業をより速く、より正確にこなせる神経回路を持つ人に有利に働いただろう。そうして数百万年の時を経るなかで、右手が利き手という役割を手に入れた。
2. コミュニケーション・ジェスチャーの仮説
人間の場合、言語を司る領域は脳の左半球、つまり左脳に集中している。その左脳は、右半身の運動機能をコントロールしている。言語とジェスチャーが密接に絡み合ってシステムとして創発したことで、左脳の優位性と、右手の優先使用のつながりが深まったのかもしれない。人の生存にとって言語が中心的な役割を果たすようになると、左脳は脳を動かす司令塔と化し、右手がそれに従ったということだ。
3. 階層的作用の仮説
料理をする、家を建てる、儀式を執り行うなど、順序に沿って複雑な作業をする際には、神経系が一種のプロジェクト管理を行なう必要がある、という考え方だ。左脳は、そうした類いの、階層的に構造化された計画を立てるのに適しているとされる根拠が存在する。これもまた、巧妙さを要する運動制御を右手が担うことになったゆえんだ。
4. 他者を模倣した運動学習
人間は、実にものまねが好きな種だ。ひもを結んだり、粘土で器の形を作ったりする方法をやって見せる時には、教える側と教わる側の利き手が同じ方が、はるかにわかりやすい。右利きがすでに大半を占めているような集団では、多数派に適合した方が社会的メリットを得られるため、右利きへの偏向が、世代を超えていっそう強化されたのではないだろうか。
どの仮説も単独では、右利きが多いことを十分に説明できない。しかし、4つの仮説を総合すれば、利き手は、生物力学、神経言語学、認知アーキテクチャ、社会的学習を収束した結果として生まれた傾向であり、さまざまな面で同時に役立つ特性であることが浮かび上がってくる。


