SaaSの重要指標を追う
私は、SaaS企業がAIの脅威にどう対応しているかを、五つの観点から追跡した。
1.脅威の認識:セールスフォース、ショッピファイとブッキング・ドットコムの違い
2024年、セールスフォースのCEOであるマーク・ベニオフは、マイクロソフトのAIツールであるCopilotを「Clippy 2.0」と揶揄した。同時に、彼はAgentforceを立ち上げた。しかし2025年12月までには、開発者たちが独自のMCPサーバーを構築し、セールスフォースのデータを最先端AIモデルに直接公開することで、セールスフォースのAgentforceを完全に迂回する動きが明らかになっていた。セールスフォースはこれに対し、Agent Fabricとガバナンス層で応じた。重要なのは、Agentforceを好むかどうかではない。重要なのは、セールスフォースが攻撃経路を明確に認識し、それを公に名指しして、行動に移したことである。
ショッピファイも同じように率直だった。CEOのトビ・リュトケは社内メモで、あらゆる採用判断の前提としてAI活用を求めた。さらに、LLMを使う買い物客にとっては、従来の店舗画面が消えていくことを明確に認めた。
ブッキング・ドットコムはその対極にある。同社CEOは、LLM由来のトラフィックについて「小さいものの、伸びています」と表現した。この捉え方は、構造的な変化を単なる漸進的なトレンドとして扱っている。
2.データによる競争優位性:インテュイットとスポティファイ
私はすでに3年前、AI主導のビジネスにおける本当の競争優位は、モデルそのものではなくデータによる競争優位性にあると論じた。早くからその点を理解していた企業が、今先行している。いくつかの企業は、長年にわたり蓄積してきた行動データが自社をいかに優位にしているかを、非常にうまく説明している。
インテュイットのCEOであるササン・グダルジは、2026年2月のインタビューで「このすべてにおいて、データが最も重要な競争優位性の源です」と端的に述べた。インテュイットには、アマゾン、グーグル、OpenAIが持っていないデータがある。1億人の顧客の税務申告、信用履歴、事業資金の流れが、すべて同じプラットフォーム上に存在しているのだ。さらにインテュイットのMailchimpを加えると、消費者と中小企業の双方を対象に、金融データとマーケティングデータを閉じた形でつなぐインテリジェンス基盤ができあがる。どの最先端AIモデルも、この組み合わせにはアクセスできない。
スポティファイもまた、データの競争優位性を築いている。新CEOのセーデルストロムは、この点を非常に明確に述べた。2月26日の決算説明会で、彼は次のように語った。
「それがスポティファイにとって構造的に何を意味するかといえば、私たちはこれまで存在しなかったデータセットを構築しているということです。それは、言葉から音楽へ、言葉からポッドキャストへ、言葉から書籍へとつながるデータセットです。
私たちはこれまで、楽曲同士を結びつけるデータセットを持っていました。しかし、言葉から楽曲へと結びつけるデータセットは誰も持っていませんでした。ここで強調したいのは、これは非常に特殊なデータセットだという点です。たとえば『ワークアウト向けの音楽とは何か』という問いには、事実として1つの答えがある標準的なデータセットだと思うかもしれません。しかし、ワークアウト向けの音楽とは何かについて、事実として1つの答えなど存在しません」。


