なぜこれが見方を変えるのか
AIチップ関連の記事で、多くの投資家が陥る罠がある。競争を「エヌビディア対グーグル」「エヌビディア対AMD」「エヌビディア対アマゾンのTrainium」と捉えてしまうことだ。「グーグルがカスタムTPUを開発」と聞くと、「グーグルがエヌビディアの市場を奪いに来た」と読んでしまう。
実際に起きていることは違う。グーグル、エヌビディア、アマゾン、マイクロソフト、そしてほかのすべての設計企業は、TSMCの製造枠を取り合っている。より多くの枠を取れた設計企業は、より多くのチップを出荷できる。枠が少なければ、出荷も少なくなる。設計競争に勝っても、製造競争の門番に制約される。そしてその門番は、この2年間で1つのことを明らかにしてきた。最も大きな顧客を優先するということだ。その最大顧客がエヌビディアである。
なぜエヌビディアは最良の枠を得られるのか。理由は3つある。
・第1に、エヌビディアは最も大きな前払いをしている。数十億ドル(数千億円)規模の前払いによって、何年も先の生産を押さえている。
・第2に、エヌビディアのチップは最も複雑で、ウエハー1枚あたりの売上高が最も高い部類に入る。TSMCはBlackwellから、自社が製造するほかのほとんどの製品よりも、1平方ミリメートルあたり高い収益を得られる。
・第3に、エヌビディアのジェンスン・フアンは30年前にTSMC創業者のモリス・チャンと関係を築いた。当時フアンはチャンに、エヌビディアはいずれTSMC最大の顧客になると語った。その予測は、いま現実になっている。
グーグルはいま、エヌビディアがしてきたことを、圧縮された時間軸で実行しようとしている。マーベルとの協議、メディアテックとの提携、ブロードコムとの契約延長。そのすべては、エヌビディアが何年もかけて築いてきたような供給網の厚みを、グーグルが作ろうとしていることを意味する。それは正しい動きである。しかし同時に、数年がかりのプロジェクトでもある。その間、エヌビディアは最良の生産能力、最先端の製造ノード、新しい工程への最も早いアクセスを取り続ける。
投資家の誤りは、「グーグルがエヌビディアに挑戦している」という話を、「エヌビディアの競争優位が崩れ始めた」と読むことだ。本当に得るべき教訓は、もっと限定的で正確である。競争優位の源泉は、もともと設計企業側ではなく、製造工場側にあった。そしてその工場は、誰を優先するかをすでに示している。


