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2026.05.04 14:00

メタ、社員のPC操作をAIに学習させる──「人間の挙動」で競争優位を築く

Askar - stock.adobe.com

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金で買うことも、借りることも、あるいは公開されたウェブサイトから収集することもできない、AI業界における特殊な「参入障壁」(英語では「moat=堀」という比喩で表現)が存在する。それは、人間が実際にどのように仕事をしているかという、詳細かつ微細な記録だ。ドロップダウンメニューを操作する際の一瞬のためらい、文章を書き直すときの独特なバックスペースの叩き方、あるいはタブを開く順番──。米国時間2026年4月下旬、メタはこの種のデータを大規模に作り始めた最初の企業となった。

メタ、MCIプログラムを通じて米国従業員のPC操作データを記録

メタは「Model Capability Initiative」、略してMCIプログラムを、Meta Superintelligence Labsに属するスタッフ向け社内チャンネルへのメモで明らかにした。人事部門ではなく、このチャンネルで共有されたことが、このプログラムの実態を示す最初の手がかりである。

MCIは、指定された業務アプリやウェブサイト上で、米国従業員の業務用コンピューターから、マウスの動き、クリック位置、キー入力、断続的なスクリーンショットを記録する。メモに記された目的は人事評価ではない。メタのAIモデルが現在苦手としているコンピューター操作を学習させることだ。具体的には、ドロップダウンメニューの操作やキーボードショートカットの使用である。メタは、会社支給の端末上での従業員活動は何年も前からモニタリングしており、機密性の高い内容を保護する安全策もあるとしている。

メタは2026年に、AI関連の設備投資として1150億〜1350億ドル(約18〜約21兆円。1ドル=156円換算)を投じる計画だ。しかし同社が必要だとしている要素、つまり計算資源だけでは生み出せない入力データは、人間がドロップダウンメニューやCtrl+Fキーを使う様子を集めたデータ群なのである。

競合各社は顧客との信頼や規模の制約を抱えており、メタだけがデータを生み出せる

AIエージェントの投入を急ぐすべての企業が、業務フローデータを必要としている。人間が企業向けソフトウェアの中で実際にどう操作しているかを示す、細かな記録だ。公開ウェブ上にそのようなデータは存在しない。分かりやすい回避策は合成データの生成だが、AIモデルはドロップダウンメニューの前で人間がためらう様子を、説得力をもって生成することはできない。企業顧客はそうしたデータを日々生み出しているが、それをモデルの学習に使えば、契約違反や信頼の毀損につながる恐れがある。

マイクロソフト、セールスフォース、オラクル、サービスナウは、顧客環境内にあるこの種の膨大なデータの上に事業を築いている。しかし彼らはそれに手を出さない。企業向けソフトウェアを数千億ドル(数十兆円)規模の事業にしているのは顧客からの信頼であり、その同じ信頼が、データの使い方を制約しているからだ。そうではないことを示唆するメモが1つ流出するだけで、業界全体の契約価格は見直しを迫られるだろう。

グーグルとアップルには別の制約がある。独占禁止法をめぐる継続的な圧力と、個人データの扱いにすでに敏感なユーザー基盤だ。そしてOpenAIとAnthropicには、利用可能なデータ群を生み出せるほど大規模な従業員組織がない。

残るのはメタである。米国内に数万人規模の知識労働者を抱え、会社管理の端末を使わせている。失うべき企業顧客はなく、評判上のコストを引き受ける意思もある。MCIは、従業員を使った「参入障壁(堀)」を実際に形にしたものなのだ。

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翻訳=酒匂寛

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