AIの導入は、歴史上ほぼあらゆるテクノロジーよりも速いペースで加速している。しかし、消費者の信頼は逆方向に動いている。キャップジェミニの調査によれば、消費者の3分の1が現在、AIツールを1日1時間以上利用している一方で、AIへの全体的な信頼はこの1年で72%から58%へ低下した。このギャップこそが戦略上の課題である。これをいち早く埋める小売企業が、次の時代のブランドロイヤルティを手にする。
なぜ食い違いが起きるのか?
消費者はAIを拒んでいるのではない。透明性の欠如を拒んでいるのだ。筆者の会社であるProsper Insights & Analyticsの最近の調査によると、回答者の32%が、AIの最近の進展に関する最大の懸念として「AIが使用するデータについて、より多くの開示が必要だ」と述べた。
例えば、人々がAIを買い物アシスタントとして使ったり、製品・サービスのおすすめを求めたりするとき、どのツールを使うか、どの情報を提供するか、そしてアウトプットを信頼するかどうかを自ら判断している。だが小売の現場では、多くの消費者が、自分のデータがどう使われているのか、アルゴリズムによる意思決定がどう行われるのか、問題が起きたとき誰が責任を負うのかを把握できていない。
キャップジェミニでコンシューマープロダクト&リテール部門責任者を務めるドリーン・ヤン氏は、次のように述べる。「消費者はAIが完璧であることを期待しているのではない。AIが何をし、何をしないのか、そして何か問題が起きたとき誰に相談できるのかについて、正直であることを期待している。それが今の基準だ。これをクリアするブランドは、最も技術的に進んでいるブランドではない。最も透明性の高いブランドである」
キャップジェミニの調査では、消費者の過半数が、AIシステムにおける個人情報について明確なコントロールを望んでいることが分かった。単なるオプトアウトの仕組みではなく、真の意味での「人間が関与する(human-in-the-loop)」ガバナンスである。こうした透明性へのニーズは、多くのブランドが考える以上に根深い。IDPC(アイルランドデータ保護委員会)の調査では、61%がAIシステムによる個人データの利用方法を懸念していることが示されており、情報が舞台裏でどのように処理・共有され、最終的に意思決定へ影響していくのかに対する広範な不安を映し出している。
ブランドにとっての本当の賭け
小売企業にとって、これは異例の機会を生む。テック業界の多くがAIの展開競争を繰り広げるなかで、真に意味のある競争優位は、「信頼」という方程式を先に解き切ったブランドに帰する。
実際、キャップジェミニの調査によれば、AIはすでに消費者の半数にとって従来の検索エンジンに取って代わっている。同様に、最近のProsper Insights & Analyticsの調査では、「インターネットで検索すること」が生成AIの最も一般的な利用用途である。これは大きな市場の変化だ。だが重要なのはここからである。消費者は、体験のなかにセキュリティとプライバシー保護策が組み込まれているなら、より高い金額を支払うことにますます前向きになっている。この支払い意思は、具体的なシグナルだ。事後的に付け足す(bolting it on)のでなく、体験にプライバシーを織り込んで設計するブランドは、競合にはない価格決定力を持てる。
実務におけるリーダーシップとは何か
多くのブランドが犯す過ちは、信頼を「メッセージングの問題」として扱い、「システムの問題」として扱わないことだ。ヤン氏によれば、真の信頼構築には3つの具体的なアクションが必要である。
- 「第一に、トレードオフを透明化すること。あらゆるAIシステムは選択を行う。スピードか正確性か、パーソナライズかプライバシーか、利便性かコントロールか。これを正しくやっているブランドは、『このシステムは閲覧行動を分析して体験をパーソナライズする。ここでオフにできる。オフにすると何が変わるかはここにある』といった具合に説明する。それが敬意だ。顧客はそれに反応する」
- 「第二に、説明責任の構造だ。何かがうまくいかなかったときに誰に連絡すべきかを消費者は知りたがっている。ボットではない。チャットウィンドウでもない。人間の意思決定者だ。消費者がガバナンス構造を理解できている業界では、AIの展開が拡大しても信頼は安定して維持される」。これはベライゾンの調査でも裏付けられている。必要なときに人間の担当者へ迅速にアクセスできない場合、消費者の47%が強い不満を感じると回答しており、そうした瞬間が当該小売企業への恒久的な信頼喪失を生む。
- 「第三に、データの最小主義だ。多くの組織はいまだに『必要になるかもしれない』として、可能な限り多くのデータを収集している。発想を反転させるべきだ。特定の機能に必要な分だけ集め、スケジュールに沿って削除し、そのことを顧客に伝える。手の込んだプライバシーポリシーよりも、収集を減らすほうが信頼を生む。矛盾ではない。信頼とはそういうものだ」
世代によるニュアンスが重要だ
IDPCによれば、Z世代はAI導入で先行している一方、ガバナンスに対する懐疑でも先行している。彼らはAIツールを使いながら、同時に透明性も求めるのだ。Z世代がAIを受け入れつつ懐疑的でもあることは矛盾ではなく、成熟である。彼らはアルゴリズムのあるシステムとともに育った。テクノロジーが本質的に善でも悪でもないことを理解している。求めているのは、その「最良の形」なのだ。
ヤン氏は次のように指摘する。「Z世代はAIを刺激的とも脅威とも見ていない。メールと同じくらい日常的なインフラとして見ている。だが、その親しみが彼らを鋭い批評家にするのであって、扱いやすい顧客にするわけではない。AIシステムが不公平なトレードオフをしていたり、不要なデータを収集していたりすると、彼らは気づく。そして、気づかないはずだと高をくくるブランドからは離れていく」
ここでの示唆は、若いオーディエンスほど、AIをどのように、どこで使っているのかを正直に語るブランドに報いるということだ。「AIを使って商品をおすすめしている。そうするほうがあなたにとって良い体験になると考えている。ここでオフにできる」と言えるブランドは、AI機能を曖昧にしたり過剰に売り込んだりするブランドを上回る。効くのは率直さである。AIが得意なことと、限界があるところの両方を認めることだ。
だからこそ、いま最も興味深いブランドポジショニングの一部は、「AIで何をしていないか」を明確にする企業から生まれている。これはAIからの撤退ではない。消費者の信頼が実際にどこで形成されるのかを反映した、ポジショニング上の選択である。
ブランドは規制に先んじて信頼の基準を定義できる
ガードレール(制約)はAI導入の障害ではない。消費者の信頼にとっての前提条件である。最終的に顧客は、枠組みのなかでAIイノベーションが進むことを望んでいる。ブランドは、その枠組みが外部から義務づけられるのを待つこともできるし、内部で構築して差別化として打ち出すこともできる。
信頼構築を戦略として捉えるブランドは、AIの導入とAIへの信頼が緊張関係にあるのではないと気づくだろう。両者は同じコインの裏表である。人々が理解し、コントロールできるAIシステムこそ、人々が最も使うAIシステムになる。
規制はやがて、優れたブランドがすでに実践していることを成文化する。優位に立つのは、誰かの枠組みに従うのを待つのではなく、自らの条件でいま信頼の基準を打ち立てる小売企業である。
開示:上記で言及した消費者センチメント調査は、筆者の会社であるProsper Insights & Analyticsが実施した。これは全米小売業協会(National Retail Federation)が使用しているのと同一のデータセットであり、経済ベンチマーキングのためにAmazon Web Services、ブルームバーグ、ロンドン証券取引所グループからも利用可能である。



