経済・社会

2026.06.06 14:15

フィールドで読み解く「全体像」と境界をあいまいにするまちづくり

4. まとめ:あなたの「全体像」の語りは、どこから始まりますか?

いま、日本の地方や企業は、脱炭素、人材不足、賃上げ、ブランディング、地域共創——キーワードが増え、会議は賢くなったように見えます。しかしキーワードが増えるほど、現場の人は「自分の仕事が全体のどこに座っているのか」を失いやすい。デンマークから持ち帰るべきは、単体のベストプラクティスではなく、全体像を語る作法だと私は結論づけています。環境の話をするときに経済を、経済の話をするときに文化を、文化の話をするときに健康を、切り離した瞬間に、戦略は現場から浮き上がる。

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今、日本の地方や企業は、脱炭素、人材不足、賃上げ、ブランディング、地域共創など、多くの課題に取り組んでいます。会議では多くの専門用語が飛び交いますが、キーワードが増えるほど、現場の社員は「自分の仕事が全体の目的とどう繋がっているのか」を見失いがちです。

デンマークから学ぶべきなのは、個別の成功事例(ベストプラクティス)ではなく、物事を全体として捉え、語る考え方だと私は考えています。

例えば、環境問題を議論する際に経済を、経済を語る際に文化を、文化を語る際に健康を、といったように、要素を切り離して考えてしまった瞬間に、立てた戦略は現場の実態からかけ離れてしまうからです。

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報告書の末尾に「今後の展望」が必ずあるように、視察の末尾にも「影の章」を書く習慣がほしい。そこに書かれるのは失点ではなく、現場の誠実さです。私はこれからも、スライドの外側を歩く仕事を選びます。なぜなら、境界の外側にこそ、次の共創の種があるからです。デンマークの空は、晴れとは限らなかった。それでも対話は続いた。その事実こそが、私にとっていちばんの先進事例でした。

デンマークのフィールドリサーチは、成功のスライドを増やす旅ではなく、光と影を同じフレームに収める旅でした。ヒュッゲの温かさ、フラットな対話、国家レベルの産業転換、そして天候やメンタルヘルスの統計——どれか一つだけを切り取って「デンマークはこうだ」と言うことは、現場の人々への敬意を欠きます。視察報告が「賛美」か「失望」の二択に落ちるとき、私たちはいちばん大事な学びを落としています。学びは、矛盾の中にあります。

私たちが大切にしたいのは、異なる個性を消さずに混ぜ合わせる「和える」まちづくりと、スペックや効率だけでは測れない「情緒的な価値」の設計です。それは、コミュニティ資本主義や社会関係資本といった言葉の背後にある、具体的な温度感の蓄積でもあります。関係性は、善意の寄付ではなく、繰り返しの相互作用で厚くなる資産です。だからこそ、イベントの成功だけを祝うのではなく、翌週も続く会話の設計まで含めて評価する必要があります。よそ者・若者・馬鹿者を歓迎する文化は、制度の隙間から生まれることが多い——だからこそ、制度側は「隙間」を意図的に守る設計が必要です。ミキサーのように均質化するのではなく、違いを残したまま混ぜる。それが私の辞書にあるバウンダリー・スパナーの仕事です。

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文=松尾泰貴

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