経済・社会

2026.06.06 14:15

フィールドで読み解く「全体像」と境界をあいまいにするまちづくり

インターネットで「八尾 変態」と検索すると、私の顔が出てきます。

かつて八尾市時代に「変態公務員」と呼ばれ、今は友安製作所の執行役員として、行政と民間、企業とクリエイターのあいだを行き来する「バウンダリー・スパナー(境界を越える者)」としてまちづくりに勤しんでいます。私の仕事の核は、現場の熱量を言語化し、異なる文脈の人たちを「和える(あえる)」こと——つまり、個性を消さずに混ぜ合わせる翻訳と設計です。

今回お話ししたいのは、2026年3月にデンマークで行ったフィールドリサーチのことです。ソーシャルデザイン部の今後の仕事を整理する目的もありましたが、それ以上に、耳学問で積み上げてきた「成功物語」のナラティブと、生活者の肌感のあいだに横たわるズレを、自分の身体で確かめに行きたかったのです。

今回の視察ルートとしては、デンマークデザインセンター(BLOXHUB)のようなハブや、コペンヒル(CopenHill)のような象徴的プロジェクト、そしてデンマークを代表するデザイン会社コントラプンクトの代表ボーとの面談など、紙の上では何度も触れてきた「先進事例」を追体験しました。しかし私にとって決定的だったのは、コーディネートしてくださった方から「生活と文化にも触れてほしい」と提案をいただき、教育関係の仕事に携わる方のお宅を訪ねたことです。日本とは対照的な教育観をめぐる意見交換、議論を促すワークショップの設計、家庭内での歓待の作法——会議室では決して拾えない情報が立ち上がってきました。これは、机上のベンチマークを超えて、まちづくりの本質であるCONTEXT(文脈)に触れる旅だったのです。

その旅で私が強く感じたのは、デンマークという国を一つのキーワードで語ることの危うさです。ヒュッゲ(Hygge)——デンマーク語で「居心地のよい快適さ」や「ほっこりする時間」をさす概念——は、北欧の幸福度を説明する便利なラベルになりがちです。しかし現場に立つと、そこには光だけでなく、天候や産業構造、娯楽の密度といった「影」もまた、同じ地面の上にありました。今回は、その両方を含めた「全体像」を語り直すことの重要性と、私たちのまちや組織に何が応用できるかを整理します。

ソーシャルデザインの仕事は、善意のプロジェクトを増やすことではなく、関係性の再配線です。その意味で、組織論にいうストラクチュアル・ホール(構造的穴)——情報や資源が部門の壁で途切れる空白——を見つけ、そこに翻訳者が入り込む行為は、海外視察でも同じです。見本市の展示物と、生活者の沈黙のあいだ。政策文書の言葉と、現場の身体感覚のあいだ。その穴を測れないまま輸入したアイデアは、どこかで必ず歪みます。デンマークは、歪みを減らすために「生活への招待状」が必要だったのだと、帰路の飛行機の中で何度も思い返しました。

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文=松尾泰貴

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