米国のシンガーソングライターであるP!nk(ピンク、本名アレシア・ムーア)は、グラミー賞を3度受賞し、世代を代表するアーティストの1人として知られる。
その彼女が、本格的なワイン造りに取り組んでいる。彼女は2013年、カリフォルニア州サンタバーバラ郡サンタ・イネス・バレーに有機栽培のブドウ畑を購入し、当初は冷却設備を備えたガレージで密かに醸造を続けてきた。
米国では、有名人が自身の名前を冠したワインブランドを立ち上げる事例が、近年急速に増えた。製造は外部のワイナリーに委託し、ラベルだけを著名人の名前で売り出す手法が主流である。業界からは、品質より知名度頼みの事業として冷ややかに見られることも多い。そうした風潮の中で、P!nkはどのようにワイン造りに向き合ってきたのか。本稿は、5人の女性チームを率いる醸造家としての彼女の歩みを追う。
セレブによるワイン事業が増える中、アレシア・ムーアは異なる道を歩んだ
セレブがワインブランドを持つのは、珍しいことではない。過去20年で急拡大したこのカテゴリーにはある種の醒めた目も向けられている。その多くは、有名人の名前を押し出し、外部に製造を委託し、委員会方式でラベルを決める。品質よりも知名度で売ろうとするものが多いからだ。「その手のワインの大半は飲めたものではない。金目当てに過ぎない」と、Two Wolves Wineのオーナーであるアレシア・ムーアは、自身のワインをテイスティングしながら語る。
彼女は皮肉抜きでそう話す。ムーアもまた、自身がそのようなワイン事業を手がけるセレブの1人であることを認めている。ただし、ムーアは、何が自分を他とは異なる存在にしているのかをはっきり理解している。「私は、自分が道化だと思われるのではないかと心配していた。ボトルに自分の名前を貼り付けて、世界的なワインコンサルタントのミシェル・ロランを起用し、200ドル(約3万円。1ドル=156円換算)のワインを作るだけ。そう思われるのが嫌だった」。ムーアは、少し間を置いて、「でも、私は本気で取り組んだ」と続けた。
しかし、それは控えめな言い方だ。彼女は、グラミー賞を3度受賞し、同世代を代表する売れっ子アーティストの1人として知られるP!nkその人だ。2013年、オーストラリアでのツアー中に、彼女はカリフォルニア州サンタ・イネス・バレーにある有機栽培のブドウ畑を、現地を見ずに購入した。そして、その翌年に最初のワインを生み出した。ムーアはその後、何年にもわたり、この取り組みをほとんど誰にも明かしてこなかった。



