共同醸造家との出会いと、ワイン業界に受け入れられることへの不安
ムーアは当初、自分のワインを売り出すつもりはなかった。冷却設備を備えたガレージで、大型の発酵容器1つからワイン造りを始めたのは、ただワインが好きで、学びたいと思ったからだった。醸造家のアリソン・トムソンは、ムーアが「実は面接を兼ねていたディナーパーティー」と表現する場を経て、共同経営者兼共同醸造家として加わった。
「彼女はそれが面接だとは知らなかった。ただ、私のことを、これまで会った中で1番好奇心の強い人だと思っていただけだった」とムーアは言う。トムソンもすぐに引き込まれた。「一緒に働き始めた瞬間から、ここが自分の居場所のように感じた」と彼女は語る。
2人で何年も密かにワインを造り続けた後、トムソンがついに事を動かした。「彼女が私にそうさせたんだ」とムーアは語る。「私はワインを売り出すつもりなんてまったくなかった。置き場所がなくなってしまって、『学校の行事にでも寄付すればいい』と思っていたくらいだった」。
ムーアの足を止めていたのは、恐れだった。「ワイン業界に受け入れてもらいたいという強い思いがあった。なぜそう思ったのかは自分でも分からない。私は普段、誰かに受け入れられることを必要とする人間ではない。それでもワインに関しては、公平に見てもらいたかった。そのために、やるべきことをきちんとやりたかった」とムーアは語る。彼女はその後、自身の繊細な面にも触れた。「私は強く見られがちだけれど、とても傷つきやすい面を持っている。本当は、とても繊細なんです」とムーアは語る。
ワイン業界がムーアを受け入れる中、彼女は道端で泣き崩れた
そしてワイン業界は、彼女を受け入れた。
「本当に、出会った人はみんな、まったく批判することなく、私のために扉を大きく開いてくれた。先入観はあったかもしれないけれど、それもすぐに消えていった」とムーアは語る。
ワイン造りを始めて1年ほどたった頃、彼女はサンタ・イネスでオートバイに乗っている途中、道端にバイクを止めて泣き崩れた。夫のケアリーは、彼女が後ろについてきていないことに気づくまで30分かかった。「自分が何をしているのか分からなかった。誰も私を本気で受け止めてくれないと思った」とムーアは言う。ケアリーは、もう1年続けてみるよう彼女に言った。ムーアは、その言葉に従った。
有機栽培にこだわるムーアと、生態系として畑を捉えるトムソン
ムーアが購入したのは、有機認証を受けたブドウ畑だった。彼女はそれを基盤として、その後も着実に取り組みを深めてきた。「農薬のせいで脚に傷を負い、最終的に切断を余儀なくされたブドウ園労働者の話を耳にする。こうした問題が現実に起きている」とムーアは、有機栽培にこだわる理由を率直に語る。彼女は子どもとその土地で暮らしている。だからこそ、ここで問われているのは抽象的な議論ではなく、現実に直結する問題なのだ。
トムソンはワインの世界に入る前、傷ついた自然環境を回復させる「修復生態学(Restoration Ecology)」を学んでいた。そのため彼女は、ブドウ畑を単なる作物の生産場所ではなく、周囲の自然とつながる1つの生態系として捉えている。彼女は「どうすれば我々のブドウ畑を最も健全な状態にでき、周辺地域にも良い影響を与えられるのか」と語る。畑では、益虫を増やすために地表を覆う植物を育て、在来植物を植え、フクロウやブルーバードが巣を作れる箱も設置している。土壌作りも長期的な取り組みで、「すべてはそこから始まる」とトムソンは語る。「土壌が健全であること。水はけがよく、栄養が十分にあること。それを確かめる必要がある」と彼女は続けた。
トムソンによれば、彼女達の畑は比較的人の手が入りにくい自然豊かな地域にあり、郡内でも鳥の密度が特に高い場所の1つだという。「本当に美しい自然の残る場所だ。ブドウ畑に愛情を注げば、その畑は同じだけ返してくれる」。
ムーアは、「サステナブル」という言葉が都合よく使われる現状にも冷静な目を向けている。彼女は、ある醸造家が「うちはサステナブルだよ。だって住宅ローンを払い続けられているから」と言うのを聞いたことがあるという。彼女は少し間を置いて、こう続けた。「それを聞いて、なんて身勝手な考え方だろうと思った」。


