とはいえ、蹴りの速さと威力は、この戦略に必要な要素の半分にすぎない。ミスを犯したら致命的となりかねない状況では、蹴りの正確さも重要だ。獲物を気絶させるか、殺せるくらいの威力を必要とする一方で、敵の頭という小さくて不安定な標的を正確に狙いながら、敵の牙が届かないよう距離を保たなくてはならない。
先述した研究で指摘されているように、この兼ね合いを維持するためには、視覚系と筋神経系を密に協調させる必要がある。視覚系が、標的の動きと位置の空間情報を提供すると同時に、筋骨格系が蹴りを実行に移す。
ただし、ヘビクイワシの前には、いくつかの制約が立ちはだかる。脚が長ければ、遠くまで届くし、力学的にも有利だが、神経伝達には遅れが生じる。シグナルが脳から足まで移動する距離が延び、理論上は、そのせいで反応時間が遅くなる可能性がある。
おまけに、1回の蹴りでは不十分なこともある。体が大きくてなかなか倒れない獲物を相手にする時は、特にそうだ。2016年の研究によると、ヘビクイワシは、高速の蹴りを連続して繰り出すことが多い。そして、1回1回、軌道を修正して狙いを改めて定めながら、精度を落とさず蹴る必要がある。
ヘビクイワシは、どうやって蹴りを進化させたのか
キックする動物がまったくいないわけではないが、危険な獲物を倒す主な手段として蹴りを繰り出す脊椎動物は極めて珍しく、鳥類となればさらに少ない。では、蹴る行為が進化し、今でも残っているのはなぜなのか。ヘビクイワシはなぜ、ほかの猛禽類のように鉤爪やくちばしを使わないのだろうか。
その答えの少なくとも一部は、ヘビクイワシの生態学的な機会と制約にある。空から奇襲攻撃を仕掛けるやり方は、生息地ではあまり効果がない。さらにヘビクイワシは、獲物を隠れ家から追い出せることが多いので、陸上で狩りをする方が理にかなっている。脚が長いので、背丈のある草のあいだを効率よく移動できるし、安全な距離を保ったまま蹴ることもできる。
同時に、毒ヘビという存在によって強い選択圧が生じ、速さと正確性、距離に対する能力を高めなくてはならない。素早く正確な蹴りを繰り出して、相手が反応する前にその脅威を無力化できれば、生存していく上で有利なのは明らかだ。
こうした特性は、世代を重ねるなかで強化されていき、今のような、非常に高度で特殊な蹴りという行動ができるようになった。ヘビクイワシは、極端な環境では極端な適応が必要となることを示した好例なのだ。


