サイエンス

2026.05.02 17:00

武器は「強力な蹴り」、草原の猛禽類ヘビクイワシの不思議な生態

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なんとも風変わりな手法に思えるが、環境条件に応じた結果として生まれたやり方といえる。開けた場所では、隠れてこっそり忍び寄るより、見えやすさや、素早い動きの方が有利に働く。危険な獲物と向き合う時は、躊躇せずに、速さと精度を武器にした方がいい。こうして、距離を保った状態で、相手との駆け引きをコントロールし、脚を武器ならびに盾として使う捕食者が生まれた。

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ヘビクイワシの進化の物語を見ると、その歩みがいかに独特であったかをうかがい知ることができる。かつては、脚が長いことからコウノトリやノガンの仲間とされてきたが、分子レベルで分析した結果、ミサゴ(学名:Pandion haliaetus)のような猛禽類に近いことがわかった。

ヘビクイワシが近いとされているミサゴ(stock.adobe.com)
ヘビクイワシが近いとされているミサゴ(stock.adobe.com)

しかし彼らは、備わった特性という点では、唯一無二の生態的地位を占めている。ヘビクイワシが現在のような地上性の猛禽類になったのは、狩りの対象である獲物だけでなく、生息環境にも理由がある。

肉眼ではわからないほど高速な「蹴り」

2016年に『Current Biology』で論文を発表した研究チームは、ヘビクイワシの蹴りをただ観察するだけでなく、定量化を試みた。そして、英ハンプシャー州にある猛禽類保護施設「Hawk Conservancy Trust(ホーク・コンサーバンシー・トラスト)」で飼育されているオスのヘビクイワシ「マデリーン」の力を借りた。マデリーンを訓練してゴム製ヘビを蹴らせ、その威力を詳しく測定したのだ。

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その結果、驚くべきデータが得られた。蹴りを入れた時の平均ピークパワーは約195ニュートンと、体重のおよそ5倍に達した。体重が4kgに満たない動物にしては相当な力学的パワーだ。これは、軽く叩いたり小突いたり、という程度ではない。狙いを定めた、すさまじい攻撃だ。

威力だけでも十分あるが、その速さもまた印象的だ。研究では、蹴り1回あたりの接触時間が平均15ミリ秒であることも判明した。ちなみに、平均15ミリ秒というのは、人間の神経系が、触覚フィードバックを処理して反応するために要する時間よりはるかに短い。

接触しているのが一瞬であることを考えると、ヘビクイワシが蹴りを入れるさなかに感覚フィードバック(生物学では「固有受容性感覚」と呼ばれている)を得て、蹴る動作を調整することはできない──単に、そうする時間がないのだ。そのため、事前に計画した上で蹴らなくてはならない。つまり、ヘビクイワシの神経系は実質的に、蹴る前に、蹴るルートを「決めて」いる必要がある。

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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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